2021.12.12

昨日のお酒のせいかちっとも起きれる気がしない。何度か目が覚めるもとろとろとまた眠ってしまう。奥さんは不機嫌そうな唸り声をあげてしばらくすると目を開けた。嫌な夢を見た、と言い、先程のうなりの声音でそれは夢の中の僕に最低なハラスメントを受けたとかそういう夢であることは推測できたので、そうなんだ、と淡白に応えおいた。こういう時に親身に慰めると「は?お前のせいで気分を害してるんだが?」と冷たくされて世界の理不尽が増すからだ。それで夢の内容を聞くとやはり僕が碌でもない夢だった。それを受けての何度目かの入眠では僕が奥さんからひどいハラスメントを受けていた。因果応報。もうだめだ、今日は起きれない。でも午前の映画のチケットを取ってあるから頑張った。シャワーを浴びて、でかける。

『Last Night in SOHO』。エドガー・ライトはとてもロジカルで、気のいい映画を撮る作家だと思う。主に脚本面で。そのロジカルで手堅い作りが、ニッペグの華やいだはしゃぎと相性が良くてバランスがよかったのだけど、ニッペグ不在の『ベイビー・ドライバー』はオープニングは最高なのだけど全体としてみるとあまり面白くない。ロジカルにロジカルであることを捨てようという試みが中途半端に終わっている感じがした脚本と、非常にロジカルで気持ちのいい音楽と映像の編集とが、変なバランスで噛み合っていない感じがあった。シーン単体で見ていくと、むしろ音楽のなっていないシーンのほうがよかった。特にダイナーにジェイミー・フォックスを連れていく羽目になるシーンの嫌さはやけに巧い。オープニングとここだけは好き。

それで今回はアニャ・テイラー=ジョイとトーマシン・マッケンジー。なにより重要なのはアメリカからイギリスに戻ってきたこと。土地の撮り方への愛憎がもう全然違う。それだけでもずいぶん楽しい。あとはおじさんたちの仲良しを撮るのは巧かったけれど、だからこそ今度はどうかな、とかなり不安だった。けれども観終えるとだいぶ満足で、映画としてのまとまりでいうと今作が一番映画らしいようにも思えた。そういえばニッペグにもマチズモの嫌な感じが何故だかなかった。今回エドガー・ライトはロジカルで気のいいお兄さん、という印象をより強める。大好きな60年代を、大好きだからこそちゃんと斬ろうという素朴な誠実さがあった。シナリオとしては驚くほど捻りがなくて、シンプル。だからこそ映像や音の気持ちよさで観るんだな、とこちらも受け入れやすい。音も絵も気持ちよく入ってくるからこそ、おぞましい描写がちゃんとおぞましく響く。ちょうど男たちの気持ち悪さがいっそう際立つシーンで地震がきて、とてもいい演出効果を生んでいた。個人的にはもっと歪さというか、なんでこんなことになっちゃうんだ、みたいなところがあって欲しかったけれど、端正だからこそシンプルに気持ち良かったり、おぞましかったりしたとも言える。

とんかつを食べて帰る。夕食まで『It Takes Two』。たしかにこれは面白いや。ころころとゲームの手触りが変わって、うまくできるとすごく気持ちがいい。

柿内正午(かきない・しょうご)会社員・文筆。楽しい読み書き。著書にプルーストを毎日読んで毎日書いた日記を本にした『プルーストを読む生活』、いち会社員としての平凡な思索をまとめた『会社員の哲学』など。Podcast「ポイエティークRADIO」も毎週月曜配信中。