2021.12.25

今日は労働日。ぼへぼへ働きつつ、11時の開店に合わせてコーヒー豆を買いに行く。テイクアウトで一杯もらう。豆は深煎り。テイクアウトは浅煎り。浅煎りは自分でうまく美味しく淹れられない感じがあるというか、不味くはないのだけどお店で淹れてもらったほうが格段に美味しい。

昼休みに今年最後の録音。

今日は『月3万円ビジネス 100の実例』を読んで、それから『マジョリティ男性にとってまっとうさとは何か』。3万円ビジネスの本はところどころに著者の世代的な限界というか、無自覚なミソジニーが透けて見えるところがあって、モヤモヤしていた分、この本はうんうんと読んでいく。物分かりのいいソフィスティケイトされた男性というあたらしいマチズモにも寄りかからず、つねに分からないに留まり続けよう、不安でいよう、と根気よく言い続けている。ここでもやはり僕は実話怪談のことを考える。

本に限らず広く読解において「まず素直に文字通り受け取る」というのはまっとうで知的な態度だと思っている。裏読みはなんか頭使ってる気になるかもしれないけれど、結局は自分の偏見や思い込みを披露して強化することにしかならない場合が多い。判断する前に、まずは人の話をちゃんと聴く。そういう態度が取れないままに読んだり考えたりした気になって自らの狭量さを垂れ流す人が少なくない気がする。ネガティヴ・ケイパビリティだとかそういう言葉でわかった気になって安心している場合ではない。傾聴の現場は実話怪談にあります。どこまでも異質な他者との共生を考えるのならばまずは吉田悠軌『一生忘れない怖い話の語り方』を読もう。

以上のようなツイートをして、また読んでいく。生成変化、という言葉は僕も好きでよく使う。変わっていくこと、変えられてしまうことを、価値判断せずに受け入れること。たしかにこれが重要と思うが、しかし保守だとか反動だとか称される人たちはまさにこの生成変化に抵抗しているような気もする。それは自分たちの特権を崩されてなるものか、という固執というよりも、ずっと変わっていかなくちゃいけないのはしんどい、というような動きたくなさなのかもしれない。その億劫さは僕もとてもよくわかる。できることなら毎日なにも考えずに惰性で過ごしていきたい気もする。けれどもそもそも人は放っておいても老いたり怪我したりするし、毎日毎日なにも変わらないでいるということはない。生成変化は選び取るものではなくてただの事実なのだ。だから制度上の不均衡によって自身の傷つきやすさや可変性を自覚することを回避できていた人たちが、避けようもなくそうした弱さを突きつけられるというのは必要な過程のようにも思える。その過酷さをはっきりと予感しているからこそ、現状の制度を守りたい人たちは強烈な抵抗を示すのだろう。過酷さを予感できているなら、まずはその過酷さを誰かに押し付けてきたことを反省してさっさとやめろよとしか思えない。

野放図な生成変化は際限がないから安心も安定もなくなってしまうという保守的なひとたちの懸念は、妥当性のあるもののように思える。だからといって、生成変化をまるで「ない」もののようにして、一部の人にだけ適合した制度の保持を正当化できるとは思えない。そうではなく、誰もが「ある程度」の安定や安心を確保できるような生成変化の「ほどほど」の抑制を指向するルールを作っていく必要があるんじゃないかなあと僕は考えている。生成変化の肯定は無法の肯定ではなく、むしろ現行のルールの不備を明らかにして、より誰もが楽しめるゲームへと変えていくための起点であるはずだ。

話は変わるがキリストは25日未明に生まれたということになっているのだろうか。だってなんか馬小屋に三賢者が来るシーンって夜っぽいよね? 25日の夜ってことはないよね? 25日が誕生日なのだとしたら、前日の夜に大騒ぎするのなんか変じゃない? 陣痛真っ只中みたいなタイミングでお祝いされたら怒られても仕方ないんじゃないだろうか。なんで前夜祭の方が盛り上がるんだろう。これは日本だけで、キリスト教圏ではもっとこう、25日の方が本番感あるんだろうか。なんにもわからない。調べればいいのだけれど、とにかくそんなことも意識しないままにこれまでのクリスマスを楽しんでいたことに自分で愕然としてしまったので書き残しておくことにした。夕食はビーフシチューのポットパイ。

奥さんは昼頃から二回も自分のiPhoneを見失ったり、換気扇を猛然と掃除したり、ご機嫌にお歌を歌ったり踊ったり、ずーっと喋っていたりと多動気味で、僕はと言えば情報処理能力が2バイトくらいしかなくて、奥さんの一挙の処理に時間がかかる。そのあいだに奥さんから次の八挙動くらいがくるから簡単にフリーズしてしまう。あのね、と奥さんに話しかける。なんだか今、僕たちの相性は最悪みたい。すると奥さんはコロコロと笑い、わかった!とソファに身を沈めたかと思うと、スンッと静かになってしまった。あのね、蝋燭は、消える間際にひときわ明るく燃えるんだよ……と言いながら顔を伏せていく。あらまあ、と思いながら、とりあえず日記を書いてしまう。書き終える頃にはまた踊り出している。ケーキだ!

柿内正午(かきない・しょうご)会社員・文筆。楽しい読み書き。著書にプルーストを毎日読んで毎日書いた日記を本にした『プルーストを読む生活』、いち会社員としての平凡な思索をまとめた『会社員の哲学』など。Podcast「ポイエティークRADIO」も毎週月曜配信中。