2022.01.01

親類の集まりが夜に中華街である。もともとはそれが始まりなのだけれど、今日のメインイベントはもはや横浜駅構内のディック・ブルーナ テーブルでのランチだった。何が素晴らしいってミッフィーだけでなくブラック・ベアが大々的にプッシュされていること。グッズをたくさん買う気満々だった。店頭には福袋まであって、悩む。大人のお子様ランチみたいなプレートも、どうせ著作権食ってるみたいな味なんでしょと思っていたら、想像よりは美味しくて、期待値を下げておくことの大事さを感じた。好きなものに囲まれている奥さんを見ていると僕もにこにこしてしまって写真をたくさん撮った。もう僕もすっかりブルーナ大好きだ。新年マグカップがもらえるカップデザートまでいただき、いざ物販。検討の結果、福袋ではなくふつうに欲しいものを単品で買おうということになり、そうする。ブラック・ベアのTシャツは最後まで迷われたが、好きであることと、身に纏いたいかどうかは別なんだよな、ということで見送った。また欲しくなったら通販すればいいし、なんならまた来ればいい。より作り込まれている神戸の路面店にも行ってみたくなる。今年はいろんなところに行けるといいな。乃帆書房にも、曲線にも行きたい。本屋さんを目掛けて知らない町に行くということをしたい。新年ということもあって、僕はなんでも今年の抱負にしたがる。家を出る前からたくさんの抱負を作った。意思疎通、フットワークを軽く、すすんで迷走する、誰にも求められていないことをする……

西口にはかつての住まいがある。今日は東口へ出てそごうへ行った。正月から働かされる人と親密な関係にある人たちの悲しみに加担している、と思いながら初売りを満喫する。いつだかDiscord で教えてもらった高級パンツを福袋でゲットして、暖かい帽子や、可愛いピンクのマフラーも買った。水分補給やメイク落とし──久しぶりのメイクで奥さんは頭が痛くなってしまった──などで、向かいのベイなんとかとそごうを三往復くらいした。ヒグチユウコのグッチが可愛かった。

それからシーバスに乗って、各駅停車だったから青空から日の入りのころまでたっぷり乗れて大満足だった。停まっている時の方が揺れて、中で座っていると酔ってしまう。赤レンガまでは外に出ていたから気がついたのは最後の最後だった。シーバスの船首には松の枝が括り付けられていて向かい風に揺れている。血液袋のマックスを想起する。窓べりの小物だとか、ぞんざいな正月飾りが好ましかった。自然光の下でひさしぶりに写真をたくさん撮ると、GR Digital のポテンシャルを久しぶりに感じて嬉しい。今年はどんどん写真を撮ろう。今年の抱負はたくさん写真を撮ること。山下公園の脇になぞのライブハウスみたいなのがあって、シーバスが近づいていくとガンダムファクトリーだと知れた。下船してからガンダムが目視できて、ファクトリーというよりラボなんじゃないかと奥さんと言い合いながら面白そうだから近くまで行ってみる。すると動いた! 歩いて、なんだか失敗したらしくしゃがみこんでしまい、しばらくすると立ち上がって、ドヤァと天に指を突き立てる。これ、どういう顔して元の場所にハケてくんだろうね、と奥さんと眺めているとずっとそのまま動かないでいて、寒かったのでガンダムとの根気比べにはすぐ負けた。いつ戻るのだろう。動くところ見れたのはラッキーだったのかもね。

中華街で夕食。食べ放題で、たくさん食べる。あんがい僕は喋る。飲む。ほろ酔いでふらふらと駅まで向かい、途中自然とみんなはぐれていったり、好き勝手しながらもなんとなくまとまっていて、駐車場あたりからおのおの解散していった。

『疲労社会』は行きの電車で読み終えてしまっていた。最初から最後までずっとサビ、という気持ちのいい本だった。リフレイン。変奏されるサビ。帰りの電車ではシラスの年始の突発配信のアーカイブを買って見る。途中でうとうとしてしまい、半分くらいまで。群れの中ではぐれる、群れながらちょっと浮く、というキーワードが浮かんだ。次の『会社員の哲学』はここから始まるかもしれない。

帰って録音始め。推しの話から、批評の可能性、そして「町でいちばんの素人」へ。奥さんは、ああ、「町でいちばんの素人」ってそういうことだったんだ、と目を丸くしていて、これまで伝わっていなかったんだ、ということは誰にも伝わってないかもな、と面白かった。自分では当然のようなことこそ、まったく伝わらないものなのだ。

柿内正午(かきない・しょうご)会社員・文筆。楽しい読み書き。著書にプルーストを毎日読んで毎日書いた日記を本にした『プルーストを読む生活』、いち会社員としての平凡な思索をまとめた『会社員の哲学』など。Podcast「ポイエティークRADIO」も毎週月曜配信中。