2022.04.11

昨日の話をしよう。これは今日の地点から昨日を思い出して書く日記だ。そもそも日記は常に過去を振り返って書かれるもののように考えるかもしれないが、実は日記とは常に書かれる時間のなかで書かれている。そこに過去は存在せず、ただ書く現在、書かれつつある文字を読む現在だけがある。

そう考えると今日これから記述する4月10日と、昨日の時点で書く4月10日は同様に現在の書くという行為のきっかけというか素材に過ぎず、そこにあまり大きな違いはないと言えるかもしれないが、違いははっきりとあるのであって、昨日の日記を書く僕にとって文字を書くことよりも睡眠のほうが強く欲望されていたし、昨晩の僕には今日の僕の疲労の引きずり具合や、それでもなんとか労働をこなす必要なんかとは無縁でいられた。日記を書く時の状態が違うのだから、書かれるものが別のものになるのは当然で、対象との主観的な距離がとれたと思うときに書くものと、わけもわからずただなかでもがくように書くものは同じではない。

今日の出来事を今日書くということは、過ぎていった今日という過去を、冷静な観察と描写の対象としすぎることなく、自分がそのただなかにいる状況として捉える試みだと言える。だからこれから僕が書く昨日の出来事は、八時間の睡眠や二度の食事を隔ててすでにまなざし書かれるものの側に偏ったものになっているだろう。

会場にはスタートの十分前に来てくださいね、とのことだったので素直に十分前に着くと周りは既に設営があらかた済んでいて焦った。事前に送り込んだ段ボールをいそいそと月日の二階から運び出していると目の前にすてきな髪色の格好いい人がいて、お互いにあっという顔をした。柿内さん! 武塙さん! と初対面なのにお互いにわかりやすい見た目だから躊躇いなくお会いできたことを喜ぶ。あわあわと準備をしているうちに最初のお客さんがやってきて、時計を見るとすでに十一時だ。

文フリみたいに開会のあいさつなどもなくぬるっと始まるのだな、と思う。ざっくりとした設営でよしとして、ひとまずお隣の牟田さんと天野さんにご挨拶。結局このふたつのブース以外、見て回ることができなかった。奥さんには自分の用事を優先しててもいいよ、と言っていたので、基本は僕がブースを回すのだが、もちろんそうなると僕はブースにいるほか何もできなくなる。トイレに立つときはいちいち隣に声をかけてから売上金と釣り銭だけ抱えて走るのだが、この日は非常に暑くて、Tシャツ一枚でも汗ばむほどだ。だから開催中の六時間で水を2リットルとアクエリアスを500ミリリットル飲んで、トイレに五回立つことになる。

たくさんの方が遊びにきてくれた。開始早々に箕輪さんが来てくださって、おしゃべり。新しい似顔絵がとても嬉しいことなどをお伝えする。直接お伝えできて嬉しい。武塙さんも隙を見て買いに来てくださる。『雑談・オブ・ザ・デッド』の表紙案をこっそりお見せする。完成品を見てもらえるのが楽しみだ。松井さんはできたてほやほやの「H.A.B ノ冊子」を多めに持ってきてくれる。それ以降の購入者にはおまけでお渡ししていく。Ryota さんも来て、歌集の感想なんかをお話しする。大学の後輩も家でインスタライブを聞いていたのだがこれは現地に行こうと思ったと馳せ参じてくれた。岸波さんはきょうもしゅっとしていた。楽しみな話をたくさん聞かせてくれる。Discord で遊んでくれている方や、ポッドキャストを聴いてくれている方も何人かいらして、そのたびとても嬉しかった。名前を知らない人や、日記に書いてもいいかわからない人、お互いにはじめましての人もたくさん。それぞれのお客さんがみな真剣に日記を吟味し、いつ頃の日記なのかを気にしたり、しばらく立ち読みしてから上手に気配を消して去って行ったり、日記に対する姿勢が真剣でスマートな人が多い印象があった。日記ってこんなに欲望されてるんだ、と驚く。既刊もよく動いて嬉しい。

阿久津さんとのトークは、青木さんとのトークのテンションで序盤からイキって走り出したらやんわりと勢いをそがれてしまって、あ、スピード感間違えたな、と思う。そこから徐々に速さを調整していき、基本的に穏やかな速度でやりとりを進めていく格好になった。なんだかんだで事前に準備していたことは展開できた気もするし、自分の知っていることしか話さなかった気もする。終わった後に阿久津さんとどうだったんでしょうね、と話す。手応えがわからない。ON READING で青木さんとやるときは終えた後に運動のあとみたいな疲労感があるのだけど、今日はパフォーマンスというよりもふつうにおしゃべりをしてしまった感じがあって、こちらとしては「やった感」があんまりない。それで少し不安だったが、そのあと何人かから面白かったような感想をいただいたので、よかったのかもしれない。トークの中で内輪感つまりインナーサークル感が嫌いだという阿久津さんから、柿内さんは友達多そうというか内輪っぽいですよね、と仕掛けてもらった。そのとき僕は、これまでうまく友達を作れなかったから本を作ることで友達ができたときはちゃんとはしゃごうと思った、というようなことを応えたはずだ。僕はこの「ちゃんとはしゃぐ」というのはとても大事なことというか、今の自分にとってかなり核になるものだよな、と改めて思う。いま振り返るとこの「ちゃんとはしゃぐ」ということを言語化できただけでも自分としても実りのあるおしゃべりだったな、と思える。

トークの間は直前に来てくれた奥さんにブースを守ってもらって、会場はブースのすぐ裏だったがあまり声が聞こえなかったとのこと。しまったことだった。僕は一個前の福尾さんの話はなんだかんだ結構聞こえていたから、聞けるものだと思ってしまったが、トークのたびにスピーカーの調整が入っていたし、ちょっと状況がちがったらしい。あとで音声データをもらえるといいな、と思う。それから日が傾くにつれてひさしの作る陰から追い出されてしまって、お客さんのいない時間はぶつぶつと暑い、暑い、と唱えていた。奥さんは腰の調子がかなり悪そうだったので、早めに退散してもらう。文フリ以上に動きがよくて、強気で持ってきた部数の大半がはけそうで、帰りもスーツケース一個に収めて一人で帰れそうだったから具合の悪そうな奥さんを先に帰せた。段ボール二箱売れたということで、とてもすごいことだ。祭りだ。これはほんとうに祭りだった。

十七時になってまたぬるっと終わる。いつの間にか皆さん帰り支度を始めて帰っていく。もたもたしていた僕は声をかけてもらってすこしだけビールを飲んで打ち上げ。楽しかったなあ、とにこにこする。奥さんは結局涼しいところでぶらぶらしていたとのことなので程よいところで引き上げて、二人で夕食を食べて帰る。帰り道に録音をして、帰ってすぐに配信準備を済ませる。そのままお風呂が沸くまでの時間に白目を剥きながら日記を書き終えて、お風呂にゆっくり浸かっていると少し元気が回復してしまって日付が変わる頃まで起きていた。

お茶を淹れて奥さんとごくごく飲む。お互いに溜まった熱を発散するようにスマホをいじっていて、僕は見田宗介・真木悠介についてはしばらく考えることになりそう、死んだときに本がよく動くというのは僕はなんだか浅ましい気がしているのだが、この人に関してはこういうタイミングでもなければな、と思い「日本の古本屋」で「定本見田宗介著作集 10冊揃」で検索して目についたものを注文した。それからあっという間に眠った。

ここまでが、今日書く昨日のこと。そして今日、ぶじ定本見田宗介著作集の在庫が確保されたという連絡を受けて入金の手続きをして、さっそく夕方には発送メールが届いた。真木の方の四冊は大半が別の版で手元にあるがせっかくなので揃えるかどうか迷う。昨晩「見田 真木 十四冊揃」で検索してもいいのが出てこなかったのだ。

昼過ぎに労働の合間を縫ってレターパックを出しに行き、そのままレターパックとスマートレターを買い足す。郵便受けにはクリックポストでサイズオーバーで戻ってきてしまったのが二個あったので、買い足したレターパックとスマートレター、追加のクリックポストに加えてこの二つの梱包のし直しも発生する。合計で七つの荷物を作る必要がある。それらを夕方までには奥さんが作業してくれて、ふたたび郵便局へ。きょうは午前中に四つ、午後に七つの荷物を各書店に送り出した。奥さんも疲れているだろうに、しっかりと荷物を作ってくれて、ありがたいことだった。仮眠などを挟みつつ、在宅勤務はこういうとき助かるな、と考える。今日はほどほどにセーブして、面倒な仕事は明日の自分に先延ばしにしよう。

いただいた昨日のトークの音声を聞いてみると、僕はずいぶん気を遣って一生懸命しゃべっているなあ、と微笑ましくなったが、けっこう面白い話をしている気もして満足した。

昨日に引き続ききょうも暑い。ひさしぶりに腋が汗臭くなっている。炭酸水二本とコーヒーを二杯飲む。夜は「TUNIC」で遊ぶのが楽しみ。PC からミラーキャストでpopIn に繋いで、交代でコントローラーを握りつつ、見ている方は大画面で楽しめるという遊び方を覚えて、これがとてもいい感じなのだ。僕はいまだに上手くならずにすぐに死ぬ。クリアできる気がしないから、ほとんど奥さんが遊んでいるのを見てる。

柿内正午(かきない・しょうご)会社員・文筆。楽しい読み書き。著書にプルーストを毎日読んで毎日書いた日記を本にした『プルーストを読む生活』、いち会社員としての平凡な思索をまとめた『会社員の哲学』など。Podcast「ポイエティークRADIO」も毎週月曜配信中。