2022.04.14

午前中はほとんど寝ていた。起き出してからは『雑談・オブ・ザ・デッド』の本文チェック。内容への修正はほとんどなさそうだけれど、可読性というか読み心地を考えるともう少し四隅の空白に余裕を持たせたい。色々工夫してみて2ページ増に留めることができた。とはいえ試作の後のレイアウト変更は勇気がいることだった。

奥さんが作ってくれた鮭とパセリのパスタを食べて、ちょうど注文が重なったし、と散歩がてら荻窪に向かうことに決めた。雨だし、かなり面倒な気もしたが今日は出かけた方がいい感じの気分だったので。くるぶしの部分のゴムを切った雨靴は快適で、一万歩歩いても大丈夫。

電車では『会社員の哲学』の在庫がもうほとんどなくて、もう次を刷るつもりはないのでその旨の告知などをツイートしとこうと書き出すと、思ったよりも図々しいことを書き出していた。僕はひとまずなんでも思いついたら書いてみて、反応があったら驚き喜ぶし、なければあっさり忘れていくだろう。それで本当にどうしようもなく作りたくなったら頼まれなくても作るだろう。そのくらいの気持ちでいる。それから『パロールの奪取』じゃなかった、『ルーダンの憑依』。「魔法使い」と名指された神父が火炙りにされ、共同体の秩序はふたたび安定を取り戻す。ただしそれは、以前と同じ姿ではない。かつては教会が基礎付けていた人々の思考は、いまや国家を地盤とした言説へと移行した。

死刑の執行は、虚構の一体性の瞬間ではなかった。まったく逆にそれは、恐ろしいだが決定的な「試練」、法の力を有する理性の存在を示す「試練」であった。それは、人が期待していたような法ではなかった。だが、肝心なものは手に入った──「秩序が存在する」という事実、国王権力の秩序が存在するという事実である。だからこそ、議論が可能になったのだ。言葉は、語と信条を風に任せて撒き散らす自由を獲得した。同盟は解かれても構わない。すべてのことが、基盤と参照枠の再建によって、これ以降宗教的権威にとって代わり、都市の構成と言語の重みを担う力の出現によって可能になったのだ。 言説は、地盤が与えられて初めて、その騒音と戦いをとり戻した。それ自身が対象となる批判自体を基礎づける、あの〈国家〉 理性という地盤が。逆に、その脆さが人に不安を与えていた《霊的権力》は、明らかに言説の方に移行した。 それはもはや、自らがその支えとなることをやめた秩序における一つの《パロール》に過ぎない──他の多くの《パロール》を可能にし、それらを正当化し制御する力を与えられた秩序における。

ミシェル・ド・セルトー『ルーダンの憑依』矢橋透訳(みすず書房) p.305

Title に納品し、雨の日のTitle はひっそりとしていた。このお店を独り占めできるというのは初めてのことで、雨の日に来るといいことがあるな、と思う。小説が買いたくて、『野生の探偵たち』を買う。すごく好きなのだがこれまで図書館で済ませていた。やっぱり手元に置いておきたい。それから『春』。まだ『冬』を読めていないし、『秋』も内容を忘れてしまっている。だからどれもいますぐ読むという種類の本ではなかった。

それから西荻へと歩いて行って、BREWBOOKS 。気圧が下がっていて具合が悪くなるに決まっていたのでビールは我慢。納品後、『ぞうのマメパオ』と『児玉まりあ文学集成』を三冊、それに『チープ・シック』を買う。レジ打ちしてもらっている間にもう一冊気になってしまい『「知らない」のパフォーマンスが未来を創る』というのも買う。

この時点で十七時前。遅起きだったから一日が早い。本屋ロカンタンは残念ながら定休日だった。せっかく来たし、と高架の向こう側をずんずん歩き、fuzkue に行ってみることにした。半地下のお店。スリッパを手に取って、雨靴を脱ぐ。一時間だけ、と伝えて、いちごソーダとチーズケーキ。ここまでで、初めてくるお店なのに勝手知ったる感じで、なんの不安も混乱もなく一時間の集中を得ることができたのはすごいことだった。これはすごいな、体験がそのまま増殖していくというのは、ものすごいことだ。『ぞうのマメパオ』をにこにこと読んで、残りの時間で『ルーダンの憑依』を読み終える。満足。

帰りは『児玉まりあ文学集成』を読んでいた。トーチWEB ではじめの数話は「しゃらくせえな」と読んでいたのだけど、第五話で大好きなやつじゃん!となって、いつか紙で買おうと決めていた。面白くて、家に帰ってもしばらく読み続けて、あっという間に三冊が終わってしまう。4巻が出るまで寝ていたい。出たら起こしておくれ。

休日の終わりにはこれからの人生何も面白いことがないような気分になる。心底働きたくない。誰の役にも立ちたくない。僕は、誰の役にも、立ちたくない! いや、そもそも今の労働が誰かの役に立っているのかと問われれば、結構深刻に考え込んでしまうのだが。それはそれで虚しさが募ってくる。役に立たないことだけしてたい。それでたまに一握りの人に愉快がられたい。そういうふうに一生を過ごしたい。まじで。

柿内正午(かきない・しょうご)会社員・文筆。楽しい読み書き。著書にプルーストを毎日読んで毎日書いた日記を本にした『プルーストを読む生活』、いち会社員としての平凡な思索をまとめた『会社員の哲学』など。Podcast「ポイエティークRADIO」も毎週月曜配信中。