今日の柿内さんの話である。
春から円盤に乗る場というシェアアトリエのメンバーになったのだが、主に演劇の稽古場として使われているためか、奥の柱には全身を確認できる鏡が貼られている。
アトリエについて、電気のスイッチを入れる。ジ、ジ、と蛍光灯が音を立てて順番に点いていく。畳まれている机や椅子を準備する。今日はプリンタのドライバをMacBookにインストールして、細々とした印刷をするつもりだった。
ふと、柱の鏡が目に入る。
そこに映り込んでいたもの。それは──
びっっっっっっっっくりするほどブスな自分だった。
「えっ」
思わず声をあげて、後退りする。
くたびれた肌、落ち窪んだ目元、下がり切った口角。のっぺり。能面のような不気味な顔だ。
かつてシェアハウスに住んでいた頃、すてきな同居人に褒められたことがある。
「あなたは何にもなくてもいつもにこにこしていて、いいね」
それが、いつのまにかこの無表情だ。
ほんのりと口角を上げてみる。びっくりするほど顔が華やぐ。
もしかして、この数ヶ月、口角が下がっていた?
嘘でもいいから笑顔でいると楽しい気持ちになるという俗説がある。それは本当だろうと経験で知っている。僕のこの数ヶ月の不調は、表情筋の退化だったのではないだろうか。そう思うと慄いた。この数ヶ月、奥さんはこの不気味な無表情と一緒に暮らしていたというのか──
それ以降、なるべく口角を上げておくことを意識しているのだという。