2022.05.27

ウワアア、という奥さんの声で飛び起きた。奥さんは突然息ができなくなった、びっくりした、と言って、二人でびっくりしたねえと言い合う。地震では起きないくせに、奥さんの声では起きるんだな、と安心する。それなら有事はちゃんと目を覚ますことができるだろう。それが四時。

大雨からの日照りで自律神経はわやになってしまう。なんかもうぜんぶ台無しにしたい。でも本当に台無しになるのは嫌だから、取り返しのつく形で取り返しのつかないようなことをしたい。お酒でもいいのだけど、お酒で上手に気持ちよくなれたことがあんまりない。なんかすぐ眠くなっちゃうし、翌日頭が痛かったりと体に負荷ばかりかけてる感じがする。いっとき定期的に飲んでいた時はだんだん気持ちよくなれるようになったけれど、つまりは継続と慣れが必要ということで、今日手っ取り早く楽しく酔える保証がない。丸刈りとかどうだろう。この前側面を刈ったばかりだが、もっと刈っちまおう。そう思って、風呂場で刈ることにするのだが、自分でやる勇気はなく、奥さんにお願いして側面から後ろまでぐるりと刈ってもらう。トップと前髪もけっこういった。しかし僕はつくづく半端に思い切りが悪い。やるなら自分でえいやと刈っちゃえばいいのに。

奥さんは途中まで丁寧にはさみをちょっとずつ入れていて、ああ大切にされてるな、と嬉しいけれどすこし物足りないような気持ちになったのだけど、最終的に面倒になったのか吹っ切れたのか思い切りバリカンを振るうようになって愉快だった。いっけー! いやしかし、なんというか、バリカン登場までの40分くらいの丁寧なハサミ仕事がものの10分で無に帰した気もするけれど、そうこっそり釈然としなさを覚えていると、奥さんは、効果的な拷問というのは小指とか末端から攻めってって大技は最後に取っておくものでしょ、と解説してくれた。なるほどね。

結果的に坊主頭の頭頂部にだけ髪が乗ってるみたいな、タイで原チャリ乗ってそうなルックになった。案外悪くない気もするし、変な気もする。ここまできたらぜんぶバリカン入れちゃおうか、と奥さんも勢いがついている。ひとまずはこれで明日セットしてみて、やっぱり据わりが悪かったらぜんぶ刈っちゃおう、と決まる。明日は三〇歳最後の日だ。ここにきてやけくそだ。夜風がじかに頭皮を撫でていく。Wilco の新譜を聴きながら日記。気持ちいい。

柿内正午(かきない・しょうご)会社員・文筆。楽しい読み書き。著書にプルーストを毎日読んで毎日書いた日記を本にした『プルーストを読む生活』、いち会社員としての平凡な思索をまとめた『会社員の哲学』など。Podcast「ポイエティークRADIO」も毎週月曜配信中。