帰りの電車はRyotaさんとお喋りしていて、どうしたら『雑談・オブ・ザ・デッド』はもっと届くだろうかと唸っていたら、それまで横でiPhoneを眺めていた奥さんがすっと入ってきてものすごく的確な意見を提示した。僕は分析のあまりの鮮やかさに目を見開き背筋を伸ばしたが、そこで乗り換え駅である秋葉原についてしまう。また販促について相談させてください、とRyotaさんに言い残して下車。
夕飯はアロマズオブインディア。蓮根の副菜もマトンのカレーもとても美味しい。奥さんの『リトル・モンスターズ』評もとても面白く、聡明な人だな、と感嘆する。
帰り道での録音で、そうした奥さんの鋭さを再放送しようと試みて、ある程度までは成功しただろうから安心してこれを書いている今は忘れかけている。聴き返せば思い出す。配信の作業を終えたのが二十五時ちかく。ざっと選挙結果を確認し、ため息をつきつつ、寝る。
ビルは風にはためくシーツのような質感で、僕はそれをクライミングの要領で登っていく。風向きによって膨らんだり、谷のように凹んだりするから慎重にコースを見定めるのだが、突然の煽りで同行者がスリップ。地上五〇階くらいの高さから落下していく。幸運にも風を含んで六メートルくらい眼下にビルの柔らかな表面が迫り出してきてその人をふわっと受け止めてはいたようだが、僕は引き返すにも進むにも深入りし過ぎてしまったことを自覚して──
大丈夫?
奥さんが心配そうに胸のあたりをとんとんと叩いている。どうやらかなりうなされていたらしい。ものすごく怖がってたよ、とのこと。
一日ぼけーっと過ごす。『ブギーナイツ』の長回しに惚れ惚れして、なんども巻き戻す。そう、もう映画の時代ではない、ビデオすら終わった。擦り切れるほど巻き戻しても、ストリーミングされる動画が擦り切れることはない。ラストのモザイクはいつだって興醒め。30センチのディックを見せろよ、この映画の核心だろ、と憤りに近い感情さえ抱く。性器かどうかでしか判断できない規制のあり方に、文化の程度の低さを思うが、『ブギーナイツ』は低俗だからこそ輝く映画で、だから低さで腐すのはすこし分が悪い。
奥さんが夜中まで仕事をしているので、『ザ・ボーイズ』のシーズン1が終わった。ゲスオールマイトの怖さがどんどん上がっていく。