2022.08.12

『寅さんとイエス』は寅さんとイエスの共通点を列挙していく、要は与太話なのだが、与太であるからこその楽しさがあるというか、これはつまり推し語りなのだ。人は何かに夢中なとき、どんなものでもその対象と結びつけることができてしまう。そういう熱量があって微笑ましいし、気がついたらキリスト教のエピソードに詳しくなっていたりもするから、れっきとした説教にもなっているのかもしれない。寅さん語りと見せかけて、実は聖書の内容を説いている。日本の教会の説教というのはどんな感じなのだろうか。法事のお坊さんのと似たようなもので、案外このくらいゆるく土着の話題を交えて話されるのだろうか。

夕方から久しぶりの友人と会ってぼんやり企み事をする。どうする、やれそう? と聞いて答えを待ちながらアイスカフェラテを傾けたら目測を誤って思い切りズボンに飲ませてあげちゃった。緊張していたのかもしれない。パンツまで染みたと思う。それからぽつぽつとお互いの近況などを話し、明日も朝から仕事だというので早めに解散。夕飯を一緒に食べようかと思っていたから当てが外れた。

せっかくこっちまで出てきたしな、と三田まで足を伸ばしREN で観葉植物を見る。パキラでいいんだけど、パキラでも5000円する。これが鉢込みの値段なのか、ほかの適当なのと比べてどのくらいのものなのか判断がつかない。どれも格好良かったが、結局見るだけにした。この前ROUTE BOOKS に1500円で売ってたな、という記憶が大きかった。それで上野にも寄ってみたが、もう売れてしまったようだ。気楽にそのへんで買いたいのだが、いざ探すと適当に雑貨屋とかで叩き売られているパキラというのは見つからないものだった。三田を歩いているとき、前を歩く老夫婦はジャングルのアロハを揃いで着て、信号機の切り替わるタイミングや、ラーメン二郎の行列など他愛もない事柄について心底愉快そうにおしゃべりしていて、そのごきげんさににこにこした。ああいう邪気のない上機嫌さに憧れる。ぱらぱらと雨が降ってきた。すごく眠い。風も強い。さっさと帰ろうかな、と思っていたはずなのに、なんだかうだうだしていて、結局帰りは23時前だった。何をしていたのかあまり記憶が定かではない。なんだかぼーっとしていたようだ。モバイルバッテリーも別のリュックに入れっぱなしだったからiPhoneをいじれるわけでもなく、純度の高いぼんやりだし、しっかりめの記憶喪失だ。油そばを食べたのは覚えてる。

奥さんは日付が変わる頃に帰ってくる。ついにエーステ夏単を観れたのだ。

柿内正午(かきない・しょうご)会社員・文筆。楽しい読み書き。著書にプルーストを毎日読んで毎日書いた日記を本にした『プルーストを読む生活』、いち会社員としての平凡な思索をまとめた『会社員の哲学』など。Podcast「ポイエティークRADIO」も毎週月曜配信中。