2022.08.13

今朝も早めにぱっちり目が覚める。でも起き上がらずに布団でゴロゴロしてると奥さんが目覚める。あ、今日はいる! と言う。この数日はさっさと起き出して本を読んでいたから。二人でごろごろする。惰性で二度寝三度寝を重ねるのと違い、自分で選び取った怠惰は楽しい。満足するまで布団に伸びて、蕎麦屋のカツ丼が食べたいという提案がなされ十一時の開店をめがけ外に出る。無風で、遠くで蝉の声がする。絵に描いたような嵐の前の静けさだね、と話しながら歩いていくと、蕎麦屋はお盆休み。そりゃそうか、とドラッグストアで電球を買う。玄関の電球がバチんと音を立てて切れてしまって、昨晩は帰ってくると足元が見えないで不便だった。お会計を済ませると外は土砂降り。あれまあ。仕方なく斜向かいのファミレスでお昼。奥さんはべちゃべちゃのカツ丼が食べたかったようで、ここのでもそこそこ満足できたみたいだった。猫のふりをした配膳ロボットの耳を叩いて「やめてよぉ」と言われるのが楽しくて来るたびにいじめた。本物の猫も肉球を触って爪がギロリと出てくるのが好きで、よく引っ掻かれた。アメッシュを眺めていると案外すぐ止みそう。実際食べ終える頃には雨は上がって、助かる。帰り道に花屋を覗くとパキラが850円で売っている。ちょうどいい、と思ってお迎え。名前を何にしようねえ、と奥さんが尋ねる。いま家にいる草がブライアン・イーノで、亀がアントニ・ガウディ、味噌がヒエロニムス・ボスだ。ジェンダーバランスを考えるならこのへんで女性を入れたいものだが、パキラというのはそもそもの名前がよすぎる。可愛いし、怪獣っぽい。これ以上の名前があるだろうか。運ぶときに入れてくれたビニル袋はぴったりのサイズで、帰ったらハサミで切り開いてくださいね、と店員さんに言われた通りに袋を開いていくのをみて、奥さんはなんか脱がせてるみたい、と笑った。なんとなくエロい。それもあって、鉢や土をちゃんとしたのに植え替えるまでは幼名キアラさんと呼ぶことにした。それから奥さんにニコラス・ケイジの魅力を伝えたくて『カラー・アウト・オブ・スペース』を一緒に観る。二人で観るとやっぱり楽しくて、笑えたり怖かったりする映画は誰かと見た方が楽しさが増幅する、それは自分とは違った形で反応する体が別にあるから、その映画が引き起こす反応も込みで映画になるからだ。満足して、ラブクラフトやニコラス・ケイジのWikipediaを眺める。ニコラス・ケイジの豪快な浪費とこれまた豪快な借金返済エピソードは読んでいて元気が出てくる。うちのキアラさんも図太く長生きして欲しいからニコラス・ケイジって名前にしようかな。またおっさんだが。

映画を観ても十五時とかで、時間が伸びている感じで得した気分。録音して、最初はうだうだ燻っていたけれど、なんだかんだで楽しくおしゃべり。一時間半近くになってしまった。最初のほうはほんとうに内容がなく、盛り上がりにも展開にも欠けるが、その助走はやはり必要なものではあり、こういう助走や準備があとで聴きかえすときは面白かったりする、そのとき、語られている内容なんかはどうでもよく、そこにある予感のようなもの、手探りでゆっくり進むその様子を聴いている。

喋っているとあっという間に夕方で、今度は時間が縮んでる。ちょうど『ハイキュー‼︎』のカウントダウンがあと五分とかで、じっと待ち構えるがいざ時間になると出てくるYouTubeの動画が「非公開です」と表示されて笑った。再読み込みすると再生できた。映画、楽しみだな。映画館でべちょべちょに泣く未来が見える。声我慢できる自信がないな。アニメ版はえぐえぐ声をあげて泣いていた。夕食を食べるとまだ二〇時で、またゆっくりだ。超chill なラッパー、マック・ミラーを聴きながら日記。さっきまで二〇時だったのにもう二十二時になろうとしている。時間感覚がふわふわしているのか、時間の流れが可怪しいのか。台風と一緒に何者かが到来したのかもしれない。トマトを叩きつけなくては。

柿内正午(かきない・しょうご)会社員・文筆。楽しい読み書き。著書にプルーストを毎日読んで毎日書いた日記を本にした『プルーストを読む生活』、いち会社員としての平凡な思索をまとめた『会社員の哲学』など。Podcast「ポイエティークRADIO」も毎週月曜配信中。