2022.08.31

『ユリイカ』のJホラー特集をつまみ読みしていく。ついでに『早稲田文学』も引っ張り出してきて、こちらもつまみ読み。僕はゾンビとかが好きだから、いわゆるJホラー的なものにはあまりノれていない感じがある。特集を読む限りJホラーとは90年代周辺の一時期にごく一部の制作者の実践と興行が幸福にも結びついた徒花であるようで、僕はそれらの作品をほとんど知らないから、特集をかつてあった誰かの青春の記録のように読んでいる。だから面白いのかも知れない。一種の歴史の証言というか。現在進行形の面白さという意味でいうと、『早稲田文学』のほうが接近しているように思うのだが、現在進行形だからこそ文脈の形成も途上で、面白がるポイントが像を結びづらい。後で読むと慧眼にはっとしたりするだろうか。

GYAO! で『ほんとにあった怖い話 第二夜』を借りて観る。「霊のうごめく家」目当てで、確かによかった。しかしわかったのだが、僕はこの時期の日本映画の俳優の演技がかなり嫌いだ。みんなイッセー尾形みたいな話し方をする。イッセー尾形は好きだが、あれは舞台だからいいのであって、カメラの前であの発声で喋られると鼻についてしょうがない。お前ん家はそんなに大箱なのかよ、と思ってしまう。思えば僕は子供の頃から日本の映像演技がかなり苦手で、洋画も吹き替えはなるべく避けて字幕で観ていた。向こうの俳優はみんなぼそぼそ喋って、幼い僕はそれこそがリアリティというものだと思っていた。ホラーでこういう演技をやられるともう白けてしまう。僕が心霊ドキュメンタリーの方が好きなのも案外こういうところに根があるような気がする。それからYouTube で『ゾゾゾ』。僕はYouTube が苦手で、『フェイクドキュメンタリーQ』の面白さに興奮していちど『ゾゾゾ』も適当にザッピングしてみたことがあるのだけど、そのときはYouTube っぽさが邪魔をしてあまり刺さらなかったのだが、改めて第一回から通しで観ていくとものすごく面白い。これは、『水曜どうでしょう』の発展系じゃないか。落合さんの立ち振る舞いは、先輩のパワハラめいた悪ノリに振り回される部下、という『水曜どうでしょう』の構図を乗り越えた先にあるというか、愚痴っぽいくせにやたらと付き合いのいい先輩というあり方は見る側も安心して無茶振りを楽しめる。これは発明だと思った。

夜は楽しみに取っておいていた『いいお店のつくり方』をようやく開く。頭から通読するのではなく、お店ごとに一章を読んで、二章を読んで、と行き来していく。一章に再録されたインタビューは『IN/SECTS』で読んでいるから再読で、そこから六、七年を経た言葉を読んでいく。サウナの梅湯まで読んで、震える。これは、『はじめてのおつかい』の名作選の各エピソードの最後に挿入される「あれから云年後……」と似た興奮がある。みんな経ていて、いい歳の取り方をしている。ここには年月の厚みがある。ふと、六、七年の年月を耐えられなかったお店とかあるのだろうか、と不安になる。お店がなくなるというだけならともかく、それで店主の心が折れていたりしたら、そう思うとなんと恐ろしい企画だろうと思い、よく見ると表紙と裏表紙とでひとつ足りない。6.5号も9号も、3×3で9店舗載っていた。この書籍版の裏表紙は8店舗だ。慌てて雑誌版と見較べて、GIVE&GIFT を検索する。どうやら事業自体はまだ継続していて、ホームページもある。よかった。ここは確か障害者雇用のカフェで、だからお店とは別の形で拡大していっているのかもしれない。しかし、そうなるとすべての事業がそのまま続いているということで、『IN/SECTS』の編集の眼や勘のよさにびっくりする。雑誌版を見返していて、「悩める3店主の本音座談会」が好きだったことを思い出す。これの続編もやってくれないかな。

柿内正午(かきない・しょうご)会社員・文筆。楽しい読み書き。著書にプルーストを毎日読んで毎日書いた日記を本にした『プルーストを読む生活』、いち会社員としての平凡な思索をまとめた『会社員の哲学』など。Podcast「ポイエティークRADIO」も毎週月曜配信中。