2022.10.01

新幹線で名駅に着いたらそのままJRで金山に向かうのが恒例になってきた。TOUTEN BOOKSTOREへ。入店時、ドリンクの準備をしている古賀さんがにこやかに、こんにちは、と声をかけてくれる。これはこちらのことを認識してるかな、どうかな、という判断が微妙な塩梅のにこやかさで、こちらも、こんにちは、とだけ返す。ここまで直行で自販機も見逃し続けていた。喉がカラカラに渇いていたのでやや早足に棚を巡り、『東京ヒゴロ』の二巻とスズキナオさんのじゃないほうの本をレジに。『東京ヒゴロ』はたしか一巻もTOUTENで買った。りんごジュースを注文する。あとから入ってくる誰もに同じトーンのこんにちはだったから、たぶん認識されてないな、とわかるが、すっかり名乗りそびれてしまった。りんごジュースを持って、斜面の急な階段を上る。窓際のカウンターに荷物を置いて、りんごジュースをごくごく飲む。大きな氷を頬張って、マスクを付け直す。二階は手前がカフェスペースで奥がギャラリーだ。ギャラリーで開催中の佐貫絢郁さんの『代わりに読む人0』原画展。これが目当てだった。原画はよりパワフルで、濃い感じがする。とっても格好いい。窓から射し込む光もとてもよくて、カメラでそれなりにうまく捉えられたと思う。りんごジュースを飲みに一度カウンターに戻って、また氷を頬張ってギャラリーへ。そんな往復を繰り返す。カフェスペースの先客は『生活の批評誌』を読んでいて、何の関係もないのに嬉しかった。

階下でポストカードと、フェア棚に見つけて思わず手に取った『第六脳釘怪談』を改めてレジに。古賀さんとぽつぽつ話しつつ、気づかれていないことを十分に確認してから名乗った。こういうの、僕はタイミングがいつもヘンテコだな、と思う。いくらか楽しくおしゃべりさせていただいて、辞す。

今池に移動して、ウニタ書店で立ち尽くす。なんて格好いい本屋なんだ。ゴリゴリの人文でありながら抜け感のある店内。あれもこれも欲しいがあれもこれも高くてでかい。手持ちの現金が心許なかったのでさんざん迷った末に『サラゴサ手稿』だけ買う。

ほくほくと歩いて読書珈琲リチルへ。名大の近くに古本屋としてあった時、とてもよかったから移転後のお店にも来てみたかった。蔵書スペースは少なめだけれども、アレナスの『めくるめく世界』があったり、やっぱり良い。コーヒーとバターどら焼きをいただき、明日のトークイベントのメモを作る。時間になって出る。

味仙本店。さわや歌さんが先に並んでいてくださる。すぐ南森町さんも来る。店内は広々で10分程度で入ることができた。手羽先やトマト玉子焼きなどを突きつつ歓談。台湾ラーメンもしっかり食べる。辛くて、みんなしゃべるとむせるから黙々と汗を流す。唇も舌も感覚がなくなる。三口目以降は闘いのようだ。それなのに妙においしくてまた食べたくなるのだからすごい。ビールは瓶を一本だけ分け合って、あとは水をごくごく飲んでいた。

〆にパフェ食べたい、とのことで、デニーズに移動する。通された店内には「キャピタリズムと民主主義は本来なんの関係もねえんだよ」と熱弁してるおっさんがいて、熱い。23時ごろまでだらだらサンデーとドリンクバーで駄弁ってた。名古屋の大学生の気分。こういう弛緩しきった時間の楽しさは久しぶりで、とても満たされる。

いつもの道を辿って実家に帰る。両親は大学時代の友人たちと高原に旅行に出ていて不在だ。宿には立派な暖炉があるらしい。楽しげな写真が送られてきていた。実家を独り占めとは愉快だな、と思う。鍵が合わない。

──ほ?

よく見たらこの鍵、東京のうちの合鍵だ。

全力で走った。ゼエゼエいいながら名駅方面に引き返す最終電車に体を押し込む。車中で必死にホテルを探す。なんとか見つける。ああ、クソ、なんてこった。呆然としながら、僕は最終電車のなかで日記を書いた。宿にはまだ着かない。

柿内正午(かきない・しょうご)会社員・文筆。楽しい読み書き。著書にプルーストを毎日読んで毎日書いた日記を本にした『プルーストを読む生活』、いち会社員としての平凡な思索をまとめた『会社員の哲学』など。Podcast「ポイエティークRADIO」も毎週月曜配信中。