家を出る前に『ホラーの哲学』を読み終える。いい本だったな。最後の最後にとってつけたように指摘されるホラーとポストモダンの受容のされかたの相似は、僕がホラーを好む理由の一端であるように思う。ノエル・キャロルが整理するアメリカのホラーとは、ざっくりいうと強い個人が解体されていく恐怖だが、日本の古い怪談の類型は、むしろ弱い個人が強い個人へと変容していく物語だ。近代の確固たる個人主義を経由した西洋のポストモダンと、もとから個人が育たなかった土壌にむりやり近代的自我をもちこもうとしていまだに強い個人を夢見る日本のノンモダン。
ラーメンを食べて、刀剣乱舞の舞台の劇場版──芝居小屋だって劇場なのに映画館をわざわざ劇場とするのはなんだか不思議だ──を観て、あんみつを食べた。
箕輪さんの個展を見に表参道に。にこにこと挨拶をしてくださる。風景の絵は甘やかに寂しげなのに、人物が描かれているととたんにユーモラスになる。サリンジャーを読むスニーカーの女の人の絵が好きだった。人が本を読む姿はほんとうにいいものだ。しんとした懐かしさの正体は人懐こさなのかもしれない、とご本人が色々とお話ししてくださる姿を見ながら思う。『Film』の函入りのものを買う。リトグラフは自転車のやつにした。ギャラリーの目の前の細道で高級車がタイマン張っていた。奥さんが観たい展示を見にキャットストリートの方に出て、フィギュアのお店でうごうごした立体をたくさん見る。
帰りの電車で猛烈な眠気。日記も簡単になる。