2022.10.29

『近現代日本の民間精神療法』。これはロカンタンで買ったんだったっけ。明治大正期、西洋の知の体系を急速に取り込むなかで胡乱な形で現れるオカルト的思想の系図を描く本。近代化の軋みとして台頭した霊的想像力は、過去の錯誤とだけ切り捨てるにはいまだにしぶとく息づいている。たとえば健康法、自然志向、スピリチュアリズムのような形で。これらは決して現代的な現象ではなくて、少なくとも百年ほどの文脈を引き連れていて、黎明期の様子を外観すると面白いほどいま起きている議論の多くがすでにそのころ尽くされていることがよくわかる。当時はレントゲンのような放射線が担っていた役割を、いまでは量子力学が押し付けられているように見えたり、近似を探すのも面白い。オカルトの歴史が楽しいのは、そもそも人はその気になればどんな風にでも理屈を構築してしまえるということがよくわかるからだ。治療や真理の探究を大真面目に追求して、現在の知性から見るとトンデモとしかいいようのない結論に至ってしまう、その凄み。実証的な積み重ねと、決定的な飛躍。人々が時間をかけて構築してきたものであるという意味では、事実(とされているもの)とフィクションというのは、とても近しいところにあるともいえる。五十年後くらいには、マイナスイオンとか水素水とか、あるいは僕自身が素朴に受け入れてしまっている似非科学の受容状況について、このような本に面白おかしく書かれているかもしれない。

漢方薬を補充して──これもまた随分怪しい薬だ──、検査を終えた奥さんと合流。渋谷のスペイン料理屋でランチコースを楽しむ。無花果や林檎のサラダがすでにとても美味しくて、葉っぱが美味しいと信頼度がぐっと増す。タパスや、じゃがいもの素揚げも好き。じゃがいもはにんにくマヨネーズと、パプリカやヘーゼルナッツで作られたソースとを和えて食べるのだけど、貴族のピザポテトみたいで最高だった。メインのイカスミパエリアもたいへんよろしい。デザートのチーズケーキもいいお味で、葉っぱからケーキまで満足の内容。

腹ごなしにギャラリーをひやかして、そのまま代々木公園までお散歩。リトルナップでカフェラテを飲む。犬が多い。埃みたいで、野生をすっかり失ったチビが目立つが、やはり犬はでかいのがいい。カフェラテはもちろん、ホットレモネードも美味しかった。成長曲線のプラトーに差し掛かり、ここは日々の進捗の地味さに耐えつつコツコツやるしかないんだよなあ、というようなことを話しながら考える。ニュースレターをすっかりすっぽかしたことに気がついて愕然とする。

帰宅してからは荒北主演のペダステを観る。やっぱりペダステは面白いし、鈴木拡樹は立ち姿が既に二次元に限りなく近いから凄まじい。夕食は大人のお子様ランチみたいなメニューで大はしゃぎ。お腹が少し張っている。

柿内正午(かきない・しょうご)会社員・文筆。楽しい読み書き。著書にプルーストを毎日読んで毎日書いた日記を本にした『プルーストを読む生活』、いち会社員としての平凡な思索をまとめた『会社員の哲学』など。Podcast「ポイエティークRADIO」も毎週月曜配信中。