2021.01.03(1-p.365)

一日の日記に誤字見つけたよ、と奥さんが言ってくる。奥さんは更新されてすぐにも読んでいるから、日記は日記だからとほとんど推敲しない僕以上に読み返しているのではないか。いやあ、せいぜい二回とか三回だよ、わたしはやっぱり、あなたが気を狂わせていたり奇声を発したりしているのが好きみたい。

今日もフローベールと小島信夫の交互浴。奥さんに、ずっと本読んでんね、と言われる。かまって欲しい? 一緒になんか遊ぼうか、と言うと、そうじゃない、という。ただ、よく飽きねえなって。交互浴だからね、と応える。

 

明日はヒロアカの発売日だ。なんとなしに調べると『チェンソーマン』も出るらしい。後者はKindle なので予約をして、ついでに表紙が絶望的にダサいでおなじみ『ゲンロン戦記』もポチった。電子書籍は本棚に並べるのはちょっと嫌だな、と言う本も買えるようになったから、本を買う選択肢はたしかに拡張している。

そういう作業をするなかで、ついに意識改革が訪れました。「人間はやはり地道に生きねばならん」と。いやいや、笑わないでください。冗談ではなく、本気でそう思ったのです。会社経営とはなにかと。最後の最後にやらなければいけないのは、領収書の打ち込みではないかと。ぼくはようやく心を入れ替えました。そして、ゲンロンを続けるとはそういう覚悟をもつことなのだと悟ったのですね。

東浩紀『ゲンロン戦記』(中央公論新社)

『ゲンロン戦記』を早速読み出すが、たしかに面白い。つねに東浩紀はまっとうというか、いい意味で庶民的だ。なんだろう、寅さんと平気で旨い酒が飲めそうな思想家で、じっさいタコ社長のような実務家でもある。僕はたいへんいいなあと思っている。近所のおやじのような存在だから、全部を肯定するわけでもないし、そもそも部分否定が選択肢にない関係などすべて不健全なのだから、読み手と健全な距離感を結べるいい書き手であり話し手なのだと思う。とにかく笑えた。非常に当たり前のことを大真面目に言っているだけなのに、これだけ面白いのだからすごい。テプラのくだりが大好き。

真面目な話、親戚の飲みの席でクダを巻くように思想を書けるというのは、非常に優れた哲学者であると僕は思うし、僕は「観客」の立場から、そういった知に与したい。

(…)お金は、それを道具として使っているかぎり便利なものでしかありません。貨幣を介した商品交換自体はだれも不幸にしません。問題は「資本の蓄積」です。いまのことばでいえば「スケール」です。お金の蓄積が自己目的化し、数に人間が振り回されるようになったときに、社会と文化は壊れていくのです。この点では、いまネットで起きていることは、19世紀にマルクスが指摘した問題の延長線上にあります。

同書

明日公開のポッドキャストは、吉田豪のインタビュー記事だけを読んだタイミングでの録音だったが、読む前から読んでそうなことばかり話したな、と思う。僕は僕が会社員であることをけっこういいな、と思っているのだけど、いまどき生活感覚というか、地道でリアルな金勘定や利害の折衝もできないままに社会を語ることなどできないもんな、という気持ちが強くあって、たぶん僕は東浩紀がそこで響く。哲学や思想の世界にこそ、タコ社長みたいな人がもっともっと必要なのだ。

柿内正午(かきない・しょうご)会社員・文筆。楽しい読み書き。著書にプルーストを毎日読んで毎日書いた日記を本にした『プルーストを読む生活』、いち会社員としての平凡な思索をまとめた『会社員の哲学』など。Podcast「ポイエティークRADIO」も毎週月曜配信中。