2022.11.14

めっきり寒くなって、一日すべての機能が凪のようだった。今朝はすごい夢を見たのだが、それは昨日のつづきでもあった。きのうは西田シャトナーさんからいきなりTwitterでDMをいただいて、来月の芝居に出てくれないかとのことだった。よく知らない湾岸地区のでかい小屋で、僕は客席まで声が届くかが不安だった。そこで必死に稽古場で発声練習をして、オーバーワークで喉を痛めたかも知れない、とヒヤリとしたところまでだった。それで今日だ。公演は二ヶ月くらいのロングランだから、受けるとなれば会社を辞めざるをえないかもしれない。提示されたギャラは会社の給料と同じほどで、だから無給でいいから長期の休みが認められればそれがいちばんいいのだが、そうでない場合は覚悟を決めるべきだ。それに稽古期間中もできれば賃労働は避けて集中したい。感染リスクもあるし。みんなに迷惑はかけられない。今後もオファーをもらえるかはわからない。でも、シャトナーさんにはお世話になっているし──覚醒後に考えると一体どんな関係だったのかさっぱりわからないのだが──、全力で応えたい。そんなことを考えながら生々しい金勘定をしている夢で、どう考えてもインボイス制度に象徴される現与党の政策が邪悪で、小規模な個人事業主としてやっていく勇気を挫いてくるこの国の有り様に心底ムカついた。奥さんも僕も起床後すぐに労働に取り掛かっていたからこんなに面白い夢の話をしそびれている。この日記で知ることになる。昨日はといえば、話そう!と思っていたのにやっぱり忘れていて、今朝の夢で思い出したのだった。

何もやる気出ず、漫画が読みたい、と思われ、Kindleで『コーポ・ア・コーポ』の新刊を買って読み、やはりたいへんな傑作で、さらに『シャーマンキング0』、『シャーマンキングFLOWERS』、『SHAMAN KING THE SUPER STAR』を大人買い。今度のラスボスの位置にはは明確に近代資本主義が据えられていて、一体どうなってしまうのだろう、と思う。いつか見た海外のドキュメンタリーに撮られた武井宏之の仕事場は、採光抜群の高い天井の巨大な建物で、高級車が何台もコレクションされていた。本物のX-LAWSじゃん、と思ったのを覚えているが、そんな人が最盛期を越えて描くものが変わらずゴリゴリの資本主義への憎しみであることを考えてしまう。状況によって自分を曲げないというのはたしかにすごいことであるが、状況に曲げられることがないくらい金銭的余裕があるということでもある。こういうことを考え出すと暗くなるのではやめによして、『SHAMAN KING THE SUPER STAR』の途中で話がややこしくなってきて頭が追いつかなくなったので中断。少年漫画のバトルのルールとか世界の仕組みとか、なんでもかんでも複雑でびっくりしてしまう。これだけの情報を処理できてしまう「少年」とはいったいなんだろうか。ほんとにみんなついていってるのだろうか。

大事に読んでいた『何かが空を飛んでいる』を読み終える。三部の主要人物は柳田國男で、僕の柳田國男入門は大塚英志の『怪談前後』だ。一冊でも概要を掴める本を読んでいると、周辺の固有名詞もぼんやりと把握しているから、読むときの理解できている気になる度合いが違うというか、そもそも固有名詞から受け取る情報の質も量も桁違いになるからそのぶん読んでいる時間が満ちる。田山花袋の名前が出てくるだけで、柳田と田山の自然主義の徹底の方向性の違いに思いを馳せることとか。固有名詞だけでも知っておく、という意味では、FGOもばかにならない。パラケルススやブラヴァツキーの基礎情報を僕はFGOから得ている。坪井正五郎の短い評伝「牛涎的博士」がとてもよくて、内発的なものに突き動かされてわくわくと探求する人の姿が活写されている。そしてその姿の魅力は、そのまま本書を通じて描かれてきた、空を飛ぶ何かに魅入られてしまった人々のそれと重なり合う。さっそく図書館のホームページから坪井の評伝をポチる。

柿内正午(かきない・しょうご)会社員・文筆。楽しい読み書き。著書にプルーストを毎日読んで毎日書いた日記を本にした『プルーストを読む生活』、いち会社員としての平凡な思索をまとめた『会社員の哲学』など。Podcast「ポイエティークRADIO」も毎週月曜配信中。