浅草橋の書肆スーベニアを経由して湯島の古本市で武塙さんの新刊『酒場の君』を買いに行くつもりだった。一時間超えのたっぷりお散歩デート。秋葉原を拠点にして、まずは東にまっすぐ歩くとスーベニア。酒井さんにこんにちはと声をかけて、『差異と重複』をお渡しする。ELVIS PRESS の新刊が楽しみだな、あれは新刊で買うから、と自分を許して古書の『アーのようなカー』を買うことにする。漢方の看板のかたわらでおしまいになっているサトちゃんの人形を持っている。そのサトちゃんを作った人の歌集。新刊の棚からは、数軒の本屋で惹かれて買わずにいた誠光社から出ている気難しそうな喫茶店経営者の不機嫌で高邁な与太話の本を二冊買う。僕は教養に支えられた口の悪い屁理屈が大好きなので、あてられすぎてぶっきらぼうになってはかなわない、とごきげんそうな本も買おうと夏葉社の『本屋で待つ』と、スタンド・ブックスの『ご自由にお持ちくださいを見つけるまで家に帰れない一日』も買うことにするとあら不思議予算オーバーじゃないの。でも楽しいからいいね。あ、スズキナオさんの本、売れると嬉しいんです、と酒井さんがにっこりして、こちらもにこにこしてしまう。
お店を出て奥さんと今日のお買い物について報告していると、甘露が本を出していたけれどあれは誠光社じゃなかったっけ、と言う。あれはたぶん京都の本屋じゃなくてね、『ブスの自信の持ち方』の版元だよ、ええとね、iPhoneを取り出し、検索。そう、誠文堂新光社。たしかに約めると誠光社だ。
西へ西へ。神田明神前のいなり寿司を奥さんが見つけてくれていて、ここでいなり寿司と餅いなりを買って、一舟に二個あるから一個ずつ食べる。会場はこのへんかなあと歩いていると、あっ! 奥さんが声をあげる。なになに、いま、ぽつってきた。まさか。あ、たしかにぽつってきた。しかも大粒だ! ど、ど、ど、どうしよう、雨が降っちゃう! 慌てていると、いいから走る、と奥さんはきりっと応えて、ふたりは会場までの坂道を全力で駆け上がった。会場につくやいなや、ざ、と降り出す。べかべかと雷も光ってたいへんだ。息を整えるのに時間がかかった。武塙さんのブースには先客がいて話し込んでいるようだからほかの方の本を眺めているとますます雨は強まって、途方に暮れる。傘がない。武塙さんのブースはなかなか空かないので待ちきれずに横からのぞくと『三酒三様』のチラシをくださる。受け取ってあれこれ眺めていると、ユークさんが耳打ちをして、武塙さんが、あ、柿内さんなんですか、まえはもっとこう、もっと「柿内さんだ!」ってかんじだったのに、と驚き、隣の先客も、え、と声をあげる。見るとアーリーバード・ブックスの松崎さんで、こちらもびっくり。あらあらまあまあと皆でおしゃべりしながら雨宿り。新刊には可愛いサインもいただく。東京アメッシュをチェックして、雨雲がさったのを確認してからおわかれする。また綺麗に晴れてうれしい。晴れた日の散歩が大好きだからうきうきと上野まで歩いて、上野公園のお茶屋でお団子を食べる。疲れた体に甘味が染み渡る。急にゴリラが見たくなるが、動物園には入らない。さくらテラスの蕎麦屋で蕎麦焼酎と銀杏をやるのが好きで、そのつもりだったけれど飲みのメニューは17時かららしく、あと小一時間ある。諦めて帰ろうかね、と外を見るとまた雨だ!
奥のビアバーなるところで時間をつぶすことにして、ちびちび飲みながら、どうもクラフトビールや瓶ビールは好きだけれどやっぱり生は苦手なのかもしれないな、と二人とも思う。特に奥さんは、苦ッという顔をしてベロを出したので僕が半分くらい手伝った。つまみをちみちみやりつつ録音も済ませる。飲み屋での録音は声を張るからイベントのようにちゃきちゃき喋れるのかもしれない。キレはそこまでないが、テンポは悪くなかったんじゃないか。一杯で雨は上がって、蕎麦も開いたけれどお腹の空きがなくなってしまったので丸井をひやかしてあれこれと見る。奥さんのサングラスを物色する。けっきょく何も買わずにだらだらと見て、買い物というのは買わないままにこんなに楽しめてしまうのだからすごいなあ、と感心して出る。もちろんこんな客ばかりでは成り立たない。さっきの蕎麦屋に引き返して、蕎麦焼酎、銀杏、焼き鳥。僕は鴨せいろ、奥さんはにしんの棒炊きをかけ蕎麦に合わせてメニューにないにしんそばを作り出していた。しかしにしんがメニューにあるのだから蕎麦にしてもよさそうなものだし、奥さんが自作したのは概ねにしん蕎麦の味がしたので謎だった。
けっきょく傘がないまま無事に一日遊んで暮らせて嬉しい。録音だけでなくたくさんおしゃべりもした。二人の歩数を足し合わせたら三万歩くらいだろう。
