2023.07.20

宮崎駿の新作を観る。平日の朝だからほどほどに空いている。年寄りが多い。みな楽しみな様子で、いい。上映後もふたりの年寄りが華やいだ声で、よかったわねえ、と声をかけ、もう一方は差し出された手を両手で包むようなようすで、ええそうね、と頷き返していた。事前の情報をほとんど出さないままにしてくれてうれしかったな、と考える。椅子に座って、つまらなそうな予告編がいくつも流れるのを眺めながら、こんなにも未知の気持ちで映画を待つなんていつぶりだろう、と思った。まっさらな状態で映画と対峙できる。これがいちばんのうれしさだった。気分がよかったのでショッピングモールの書店で小説を何冊か買う。お昼はタコス屋で、ビールも飲んじゃう。

空が広く、雲が夏の形をしていた。芝生は黄色く褪色している部分も多く、風に吹かれてもジブリのようにはさざめかない。白く変色したみみずが何本も、何本もアスファルトにこすりつけられていた。何匹かみずみずしいままのものもあったが、僕の歩く速度とほとんど同じ具合で前を歩く三羽の鳩はそれらに見向きもせずにほかのなにものかを啄んでいく。ベンチでしばらく買ったばかりの『それは誠』を読んでいたから紙に照り返す日光が焼き付いて室内に引っ込んでしばらくのあいだは四六判見開きぶんの大きさの緑が視界のほとんどを覆っていた。

家に帰って、そのまま小説を読んでいた。乗代雄介の本はいつも謎のタイミングで涙腺がゆるむ。終盤べそべそ泣きながら読んでいたら、嗚咽の音だけききとった奥さんがまだ喉痛むんだね、と優しい声でトローチをくれた。優しい人。いまはそういうのじゃないかな。ありがとう。舐めた。

小あじの南蛮漬けを作りたくて、豆あじの内臓を抉り取っていく。首を片手で摘んで、もう片方の人差し指と親指をエラの中に突っ込む。あじはクッと口を開ける格好になる。眼球の裏側にあるエラを引きちぎり、そのまま腹側へと引っ張るとズルズルとはらわたがついてくる。きれいに中身をこそげられた三角形のあなぼこ。野蛮なゾンビの気分だ。楽しくなってどんどん中身を引き摺り出してやる。煮立てた玉ねぎと一緒にタッパーに詰めて、明日のお楽しみ。今日は玉ねぎとにんじんの味噌汁、茗荷の卵焼きをつくって、昨日のホッケの残りを混ぜご飯にして、つくりおきの胡瓜と白和えも出す。

popIn のコネクターをRentio で取り寄せてみたから試してみる。スクリーンに映してハイラルに遊ぶ。ほとんど遅延も気にならず、大画面で見るヒノックスやライネルは怖かった。手の甲が赤らんで少し痒い。あじのせいだろうか。

柿内正午(かきない・しょうご)会社員・文筆。楽しい読み書き。著書にプルーストを毎日読んで毎日書いた日記を本にした『プルーストを読む生活』、いち会社員としての平凡な思索をまとめた『会社員の哲学』など。Podcast「ポイエティークRADIO」も毎週月曜配信中。