2023.08.14

西のほうへ逸れたという台風7号がこっちまで影響しているのだろうか。そういえば最近あまり気圧だな、と不調を感じることがない気がする。たぶん暑くてずっと不調だからだ。

奥さんが実家から持ってきてくれた『バクチク現象』のDVD三枚を一日かけて観る。レコーディングをとっているところがいちばん面白かった。どんどんしわしわのピカチュウみたいになっていく今井寿。ソファで本を読む櫻井敦司。乾燥がひどそうなスタジオに詰めて、どんどん草臥れていくようすが写されている。こんなにへとへとになりながら作って、舞台上ではきらきら格好よくしなきゃいけないんだからモテるくらいしないと割りに合わないよねえ、と奥さんは感心したように呟いていた。

先週上野ではすかさん、稲垣さんと録音をしたあとお酒を飲んでいて、どういう話の流れだか読書会をやろうということになった。はすかさんが言うには、柿内さんに何も言っていないのに「絶対『ピューと吹く!ジャガー』好きですよね?」と看破された、とのことだ。酔っ払っていたのでよく覚えていない。そのくせこう言う場での口約束は執念深く覚えているものだ。というか忘れないようにトイレに立ったタイミングで岸波さんにDM を送っておいた。唐突なんですが、『ピューと吹く!ジャガー』で読書会やりたくて、機械書房でやらせてもらえませんか? 返事はすぐにきた。

ぜんぜん大丈夫ですけど、マジですか?

マジです、とすぐさま応えたのはいうまでもない。それできょう日程が確定したので鼻歌混じりに企画書と告知用のビジュアルをさくさくこしらえて岸波さんと合同主催のお二人に共有する。その一時間後には告知もはじめて、さらに二時間後にはあっというまに定員に達した。機械書房は八人が上限とのことで、店主の岸波さんに、主催が三人もいるのだからめいっぱいで四人なのだ。東條慎生さんが「定員三人の読書会、フライヤーのデザインも良くて笑う。RTした人の方が多い。」と言ってくれていたが、その通りの可笑しさで、規模に対して気合の入れ方が歪だった。告知文にはこのように書いた。

なぜいま『ピューと吹く!ジャガー』なのか?

僕は平成一桁生まれです。この数年になってようやくじぶんの生きてきた現代が一種の「歴史」として検証の対象になっていくという事態に直面している手応えがあります。

つまり、この自己を形成するにあたって所与の前提として与えられていた価値体系とはどのようなものであったのか。それを渦中からやや離れた地点から腑分けする条件が整ってきたように思うのです。

自身の10代とほとんど重なるゼロ年代とはどのような時代であったのか。2000年から2010年にかけて連載された本作品をいま改めて読み込むことで、そのような解剖作業のとっかかりになるかもしれません。あるいはただ笑い転げるだけに終わるかもしれないし、現在のじぶんの面白くなさに慄然とする羽目になるかもしれない。小学生から高校生まで、僕にとって「笑い」とはほとんどジャガーさんと同義だったから、十数年を経たいま読んでどうなってしまうのか楽しみです。

主催の三人は同年代ですが、とうぜん異なる世代の方の参加も大歓迎です。それぞれの視点をもちよって、このゼロ年代の産物を検討してみませんか。

成立過程は酒に流れて覚えていないが、まじめにいい企画だと思う。20巻ぜんぶ読むのは大変なので、ひとまず単行本ははじめの5冊に絞ってみたから、ちゃんと盛り上がりそうだったら段階的に範囲を増やしていってもいいだろう。今になって気がついたが、読書会を企画して主催するというのは僕は初めてだ。会を楽しいものとして進行していくのは心配なくできるだろうと思うが、『ピューと吹く!ジャガー』で読書会主催デビューとはな。

『バクチク現象』の直後くらいのころのファンクラブ会報も奥さんは見せてくれて、楽しく読む。櫻井敦司が挙げていた作家の小説を図書館で予約する。あなたってそういうところ偉いよね、と奥さんはいう。私はそこまで知りたいとは思えないというか、たとえばもし私が柿内ファンだったらネロちゃまに狂ったあたりで一回ミュートすると思う。

『夢見る宇宙』を聴きながら日記。Anchor の箱型スピーカーでは音がいまいちで、iPhoneから直のほうがまだマシなのだが、しかしやはり物足りなく、イヤホンやヘッドホンをせずに家で音楽を聴きたいときの正解がわからない。

柿内正午(かきない・しょうご)会社員・文筆。楽しい読み書き。著書にプルーストを毎日読んで毎日書いた日記を本にした『プルーストを読む生活』、いち会社員としての平凡な思索をまとめた『会社員の哲学』など。Podcast「ポイエティークRADIO」も毎週月曜配信中。