2023.09.13

あれだけ大々的に発売日を告知していたから村上春樹や羽海野チカのように全国で足並みを揃えるような協約があるのかと思えばジュンク堂や紀伊國屋では前日のきょうから品出しされているらしいと知り、そそくさと池袋まで出た。ほんとうに並んでる。積まれている。『鵼の碑』だ! うわあ、すごいな。フラゲなんて、タワレコでthe pillows の新譜を買って以来じゃないか。いや、CD に限らず高校生くらいまではジャンプコミックスなんかもいい加減だったはずだから、『ONE PIECE』の新刊だって前日から各書店を見回っていたような気がする。名古屋というのはそういう流通面でのハンデはそんなになかったということだろう。わくわくするなあ。もちろん講談社ノベルス版を手に取る。背表紙の黄犬が懐かしい。金ピカの帯も格好いい。裏表紙の粗筋を読まないように帯を眺めるとすでに次回作のタイトルが出ている! 今度は二年とかで出たらいいな。レジに並ぶ。実物を掴んですぐさま電車に乗って読み出す。この三週間まるまるかけて『姑獲鳥の夏』から『邪魅の雫』までを読み終え、『百鬼夜行 陽』に収録されている「蛇帯」と「墓の火」も読んで準備は万端だったのだ。たいへんわくわく、とってもうきうきしている。これはもう、fuzkue だろうなあ、楽しみにしていた新刊をがっつり読んじゃうぞ〜の気持ちだものなあと初台まで移動して、遅めのお昼は味噌汁の定食。そわそわ食べて、腹ごなしもばっちり。酔っ払ったらもったいないので龍馬をぐびぐびやりながら読み耽る。広々したソファ席で、靴も脱いでスリッパも使わせてもらって、ソファの上に胡座をかいたり膝を立てたり好き勝手やりながら只管読む。池袋を逸る気持ちに任せ競歩並みの速度で歩いたせいか、途中で右脛がものすごく攣って静かに恐慌をきたしたりもしつつ、それでも読んだ。小学生の高学年くらい、児童書の次に読んだ保坂和志と京極夏彦が二〇年経ったいまもなお僕にとっては小説だし、すべての読書はその周辺に位置づけられるといってもいいかもしれない。脛の攣りは揉んだり伸ばしたりしてどうにか収まったけれど、一時は立てなくなるかと思うほど強烈で、ふくらはぎはよくあるけれど脛は初めてかもなあと思う。コーヒー豆が切れそうだったからお土産に買って帰る。勢いでTシャツまで買っちゃった。食べるように読むやつ。丼にがっつくようにして読んでいた今日にぴったりだと思って。

帰りの電車で奥さんと連絡していたら、偶然おなじ電車で帰路についているとわかって、運命じゃん、とはしゃいだ。一緒に家に帰る。夕食を食べながら『陰摩羅鬼の瑕』の耳学問で仕入れた林羅山の話を披露したり、日光東照宮の面白さについてあれこれと喋った。ああ、今日はねえ、すごく楽しかったんだよ。そういうと、そうなんだね、とにっこりされた。

柿内正午(かきない・しょうご)会社員・文筆。楽しい読み書き。著書にプルーストを毎日読んで毎日書いた日記を本にした『プルーストを読む生活』、いち会社員としての平凡な思索をまとめた『会社員の哲学』など。Podcast「ポイエティークRADIO」も毎週月曜配信中。