2023.09.29

あたらしいZINE──『『ベイブ』論、あるいは「父」についての序論』をひとまず書き終え、PDF データにして奥さんに読んでもらう。今回は人によってはさらさらと一時間くらいで読めてしまうくらいの、いい感じの読みものになったような手応えがある。奥さんはもうすこし時間をかけて注意深く読んでくれて、誤字をぼこぼこ見つけてくれた。普段であればそれでおしまいなのだけど、今回は感想が欲しいと伝えていたので、私にとっての『ベイブ』は、と奥さんのベイブ論をきかせてくれて、それがとても面白かった。フェルディナンドや鼠への鋭い読解に、ははあ、と唸った。できることならパクりたかったが、全体の論旨がぼけそうだったので断念。こうやって各々の『ベイブ』論を触発できるようであれば、この本は成功だろう。『会社員の哲学』と同じで、僕は僕の視座から言えることだけを書くから、見えていない部分については読んだ人がそれぞれに新しく考えたらいいし、さらに書いてくれたら最高だなというスタンスでいたい。しかしそれでいうならば、と終盤の議論、というか最後エモーショナルな雰囲気で逃げようとした部分の致命的な弱点をつかれ、まったくその通りだったので最後の段落を加筆修正して、数段よくなったな、と満足して入稿。この瞬間はいつも、おれはまたすげえ傑作を世に問うてしまうな、という万能感がある。商業出版については点数出せばいいってもんでもないだろ、などと冷静に思うが、ZINE については、なあパンクスどんどん出そうぜ速ければ速いほど多けりゃ多いほどいいんだどんどん出そうぜ、という気持ちになってしまう。ハイだ。

しかも今日は小説のゲラも返したし、書評の原稿も納品したから、脱稿ハイの三乗だ。

打ち上げじゃい、とてきとうなお店で軽く飲みつつご飯を食べて、レイトショーで『コカイン・ベア』を観た。大好きなやつだった。めっちゃいい映画だったねえ! と惚れ惚れしてこぼすと、なんか湯上がりみたいなテンションだね、と奥さんは笑った。加点式でも減点式でも満点な映画で、とにかく細部に至るまで整理整頓が行き届いていた。惨劇のピタゴラスイッチも完璧だったし、なにより茶目っ気たっぷりなのがいい。しっかり恐ろしくて、それでいてユーモラスでもある。緊張と弛緩のバランスがしっかりしているからすごく嬉しい気持ちになって、ヒッヒッと引き笑いが何度も漏れた。人間ドラマパートも変な人しか出てこないからちゃんと面白くて、捨て曲なしのアルバムみたいだ。『君たちはどう生きるか』を超えて、今年ベスト。大好き最高元気出た。締め切りから解放されたら一回ちゃんと休もう、箱根とかに逗留して疲れを癒したいとか考えていたけれど、見るフィトンチッドだった、かなり癒された。箱根よりキく。癖になっちゃうね。

柿内正午(かきない・しょうご)会社員・文筆。楽しい読み書き。著書にプルーストを毎日読んで毎日書いた日記を本にした『プルーストを読む生活』、いち会社員としての平凡な思索をまとめた『会社員の哲学』など。Podcast「ポイエティークRADIO」も毎週月曜配信中。