きのうはうっかり四時過ぎまでお喋りしてしまい遅刻寸前。なんとか午前中の会議に間に合うようにダッシュして頭が痛くなった。昨晩ひたすら悪質な海賊版「スイカのゲーム」を本物と思い込み遊び惚けることでリフレッシュした頭は、寝不足の身体のどんくささに苛立つようでもあるが、じっさいのところ体がだるいのはほとんど常態であり、それでも本が読めるという状態のほうがずっと好ましい。電車のなかでは焦っても仕方がないので『屋根裏に誰かいるんですよ。 都市伝説の精神病理』を読んでいた。引越し先を考えるうち、戸建てに一度でいいから住んでみたいなと思うようになった。それで、屋根裏に興味が湧いた。僕は一戸建てに住んだことがないから、自宅に階段があるというのに憧れがあることに最近思い至った。これは祖父母の家がどちらも一戸建てであることから、幼いころは素朴な住居進化史観のようなものをもっていて、大人になるにつれ自ずと家はデカくなっていくのだと思い込んでいたからでもあるだろう。しかしこの住居進化論は、曾祖父に会いに行った、あれは小学生に上がるか上がらないかくらいのころだろうか、ともかくその家が自宅よりも小さな団地の一室であることに衝撃を受けて早々に瓦解することになるのだが、それでもいつかは独り立ちして戸建てに住むのだというふんわりとした気分だけはいまだに残存しているようだった。奥さんはもともと戸建て暮らしで、猫を飼っていたし、炬燵まであったという。猫は祖母の家にいたからまったく馴染みがないわけではないにせよやはり猫との暮らしというものはしておきたいし、炬燵に至っては親類の家で見たことがないので物語への憧憬にちかいものすらある。階段、炬燵、猫。これが物件の条件だった。
退勤後は街で待ち合わせしてビール飲む。鍼灸帰りの奥さんはあっというまにごきげん。アイスを買ってカラオケボックスに持ち込んで大きな声でいくらかの歌をうたって帰った。飲んだらお風呂はいけません。ついつい長風呂してしまう。にこにこしていて愚かな人間ども。もう二時。きのうよりも二時間も早く寝れるね、と奥さんは目をきらきらさせる。僕は歯磨き粉チューブから僅かな残りを絞り出すために四苦八苦して、けっきょくすべてが面倒くさくなっていじけた。そんな僕に奥さんは大きな片目をつむってみせる。ばちこん、と音がして漫画みたいな星が見えた。
