朝から不動産屋に出かけて契約。細々としたあれこれを丁寧に説明してもらって、あちこちに名前と住所を書き──引っ越すのだからすぐに反故になる住所を書くのはわかるのだが妙な心地だ──、判子を押した。大きなお金がほいほい動く、というのは嘘で、あれこれと書類を通さなければ動くものも動かない。事務で世界と踊るのだ。くたびれた。てきとうな店で葱メンマ、肉どうふ、串の盛り合わせで赤星をひと瓶やる。気分よく酔っ払っていたら家から通話で参加していた奥さんから今後必要になってくる公的書類についての指図がどかどかとSlack で通知が来るので煩い。うるさい! 帰宅して散歩を察知した大型犬並みに大暴れする。宥めすかされてけっきょく役所巡りもする。十一時間ほど移動し通しで書類を確認したり承認したり取り寄せたりに費やしたことになる。腹立たしいので二度目の帰宅時には椅子にふんぞり返って奥さんに俺様にコーヒーを淹れたまえと慇懃にお願いすると、本人は普段から飲まないくせに僕より美味しく淹れてみせる。好きな人がコーヒーを淹れる様というのはとてもよくて、睫毛の影を頬に落としながら真剣そのものの姿に見惚れているうちに機嫌も直ってしまう。
人形町で夕食がてら軽く飲んで、奥さんと外で飲むのは久しぶりな気もした。細巻きや揚げ物がおいしかった。ほこほこして赤い顔で電車に乗って空港へ。明日の朝イチの便で発つので敷地内のカプセルホテルで一泊するのだ。シャワーを浴びてカプセルにイン。これだけですでにちょっと楽しい。くたくたなのですぐ眠れるだろう。