2024.03.22

日中に労働を済ませて後楽園ホールに向かう。きょうは友人を誘っている。ビルの前のベンチで速水『ケータイ小説的。』を読みながら待っていた。ラッセンに引き続き、いわゆる「文化系」から安易に嫌悪されたり無視されてきたマスカルチャーを正面から批評する試み。ゾンビも実話怪談もプロレスもそうだが、僕はそういうところに関心がある。ソフィスケイトされたアーバンな値の枠組みを用いて、地元の「うちら」のジャスコ的感性を分析すること。

前回は最前列で破片を浴びて楽しかった。今回は初めての人もいるし、まずは今回はすこし後ろのほうでビールでも飲みながらのんびりやるのがいいだろうと思っていたのだけれど、取ったチケットは最前ブロックの南側真ん中らへんで、場外乱闘で何度もなぎ倒されるパイプ椅子だったので、むしろ前回よりも大はしゃぎ席で、ビールは安全なうちにそそくさと飲み終えねばならないような感じだった。ちょっとしまったことだったけれど、めちゃくちゃ楽しい。おさがりください! とアナウンスがあると右隣の人たちがパッと左に逃げる。本気で怖がっているから僕の前に溜まってしまって、その勢いに気圧されて立ち上がりそびれる。そのようなことが何度もあったが、とうとう派手に逃げねばならない事態になってもっと奥まで走ってくれたから僕も立ち上がってわらわら逃げる。席から追い出された客も慣れたもので、後ろの人が見やすいようにしゃがんだり膝立ちになったりスマートだ。僕も見習って膝立ちになっていたのだけれど、コーナーから椅子の上に横たえられたガラスボードへと叩きつけられる体がガラス片を飛び散らかす瞬間、あまりの興奮に立ち上がって叫んでしまった。うひぁー!

水道橋駅裏の飲み屋街にある台湾料理屋で一杯やってから解散。楽しかったなあ。友人も楽しんでくれていたらいいな。すごく面白かったけど、次は三年後でいいかな、と杉田の真似をして嘯いていたけれど、半年後くらいにまた誘おうと思う。

きょうは19歳のデビュー戦もあったし、山下りな選手も観れたし、大満足の内容だった。中村大夢選手はデビューコメントで特技は野球です! と朗らかに言ってのけていて笑ったし、試合直後からセコンドできびきびと働いていて格好よかった。藤田ミノルと山下が左右から花束をフルスイングして葛西純を吹っ飛ばし、赤い花弁がリング上にわっと舞うところの綺麗さもとてもよかった。二〇周年のジャックが、こんなことずっと続けてるなんて思ってもみなかった、またやろう、と言っていて、すごい、と素朴に思う。前回はPentax MX-1 を持って行ったけれど、壊れてしまったので今日はGR-Digital を持っていった。ズームはないけれどスナップ写真はむしろこちらのほうが適している。帰りの電車で見返しながらてきとうに拡大して切り抜くといい感じに撮れているものもいくつかあった。八枚選んで投稿する。すると翌朝の僕は山下選手が自身の投稿に写真を使っていることに気がついて大喜びすることになる。お客さんは声援を送るだけでなく、写真を撮って、選手の宣伝に使ってもらえたりもする。使ってもらえるとこちらも楽しいし、向こうとしてはお金を払わずに宣材を手に入れられるのだから双方よしである。中規模のプロレス団体には相互扶助の雰囲気があって、社長と対決する新人に遠慮すんなよ! やっちまえ! と声援を送るような、ともに育てていくという気概に満ちている。いまの僕にはそれが気持ちいい。地元でやり損ねた「うちら」をやろうとでもいうのだろうか。もっと利用したくなるような写真を撮って動員に寄与したいなどと考えていくと、カメラの道にずぶずぶと踏み込んでいくのだろう。なんとかいい加減なところで踏みとどまりたい。

柿内正午(かきない・しょうご)会社員・文筆。楽しい読み書き。著書にプルーストを毎日読んで毎日書いた日記を本にした『プルーストを読む生活』、いち会社員としての平凡な思索をまとめた『会社員の哲学』など。Podcast「ポイエティークRADIO」も毎週月曜配信中。