ふだんそこそこの投資のすえ構築した睡眠環境に甘やかされているため、慣れない環境にうまく眠れず二時すぎまでベッドの上でのポージングを試行錯誤していた。お風呂やサウナの効果かぽかぽかに発熱しており寝苦しい。起床は七時半。寝た気がしない。３%のユーザーよりも良い睡眠です。
宿から富山駅までを歩いていく。スーツケースを引き摺っていると、歩道の整備のされ具合が触覚として伝わってくる。大きな駐車場のアピアがあり、ヘアーサロンアオキがあった。このあと会う青木さんに写真を送ろうかと思案しているうちに通り過ぎてしまう。ディック東郷のように「富山の朝はモーニングから始まる！」といいたくて、モーニングを食べれそうな店を探しながら市街地に近づくのだが、わりあいどこも遅起きだ。駅前の商業施設のカフェ併設のパン屋が開いてはいたが、施設自体はオープン前で立ち入り禁止、トイレも使えないと掲示されていたのでいったん駅でトイレを使い、もうすこし粘るのだが、どこも見つからず先のパン屋に戻ってプロレスラーの四分の一くらいの量しかないモーニングで始めた。もっともりもり食べたかったが、そうしていたら寝不足も相まって最後まで起きていられなかったとも思う。
受付で運営の皆さんとご挨拶。設営しながらお隣のブースの方にスペース干渉してたら言ってくださいねというと、敷き布の位置を決める前からすでにちょっとはみ出てるかな、と即座に返される。真顔で冗談ともつかない冗談をいう人はいい。その人は富山の人で、富山駅の改修前は南北が線路で分断されていたことなどを教えてもらう。友田さんも来て、青木さんも来た。机を配置して四角く区切られた内側で、三人でべらべらおしゃべりする。反対側のお隣は名古屋や岐阜から集まってきた三遊感というユニットで、そのうちのお一方と青木さんとで九〇年代新日本プロレス談義が白熱。面白く聞く。青木さんは満足して金沢へと向かっていく。その前にサイン本をいくらか作ってもらう。改札前の広々としたスペースで人通りは絶えないが、ZINEコーナーはメイン通りとは反対側の出口の側でやや静か。岐阜駅本の市と較べて人出は三分の一くらい、売り上げは半分といった体感。つまり、来てくださる方が買ってくれる比率が高い。何人か、お会いしてみたかった方との嬉しい遭遇もあった。波は緩やかなので、ブースを空けて他の方の本を見に行ったり、お隣で似顔絵を描いてもらったり、そこそこ好き勝手に動けたけれど、流石に古本市のほうにまで進んでいくと帰ってこられなそうでやめておいた。十七時二分に奥さんを乗せた新幹線が到着するということで、五分前くらいからそわそわ改札のほうを確認してしまう。やって来た奥さんは小さなカバンとトートバッグのみで、スーツケースでくると思い込んでいたから拍子抜けした。これではうっかり荷物を増やしたりはできないな。
時間がきててきぱき撤収。宿に荷物を置きに行くとどっと疲れてベッドにはんぶん横たわると寝てしまいそうだ。ロビー横の食堂にウェルカムドリンクがあるというので見に行くと見事に酒だけだ。薄いハイボールをちびちびやって、時間になったので懇親会の会場に向かうと宿のすぐ裏手だった。個室でのしっかりしたコース料理で、予想外に会食感の強い大人なお食事。瓶ビールから始めて富山の地酒をいくつか。ごきげんに飲み食いしながら各地からあつまったZINE作者と本や本屋を中心におのおのの地方の文化シーンの情報を交換しあったり、ZINEの定義や売り方について議論したりと話も盛りあがる。最後はプロレスの話を始めてしまい、これは奥さんも好きだから止めてもらえない、それどころかふたりで熱弁をふるう。プロレス好きと関心のある方がおふたりいらして、四人で激論を交わしてしまうのだが、顔を顰められも止められもしなかったのでわれわれ以外も楽しい時間ではあったのだと信じたい。うきうき気分の上がった僕と奥さんとは未練がましく交差点まで皆さんを見送り、引き返して二次会に向かう。宿の隣の居酒屋の〆パフェの文言に惹かれ入店。刺身、あじユッケ、いちじくバターで日本酒をやり、もう一杯飲んだらダメだな、とわかっていつつなぜか果実酒を追加してからのパフェ。メロンと苺だった。最後の一杯で案の定おしまいになったので、翌日奥さんに見せてもらったぐねぐねぶりっこしながらごきげんにピースしている写真の記憶がない。途中から離人症めき、自分がここにいる実感のないまま、なんか好きな人と美味しいもの食べてて嬉しいな、とふわふわし、同時に眠くて仕方がなかった。いつの間にか宿のベッドにおり、横たわるやいなやすやすや眠った。
