2024.08.21

家に出没する蜘蛛は何匹いるのだろう。殖えているのだろうか。見かけるたびにどんどん太々しくなっていくので、おそらく向こうもこちらの顔を覚えていて、こいつなら害はないやとたかを括っていたのだろう。奥さんの仕事部屋で私物の上を我が物顔で通過していくようになった頃、蜘蛛たちは思い出した。ヤツらに支配されていた恐怖を……鳥籠の中に囚われていた屈辱を……

ペットボトルを半分に切って、上部を逆さに下部に嵌め込んで作った檻に、蜘蛛を次々に放り込んでいく。体の大きな雌が有利で、次々に雄たちを羽交締めにしてはちうちうと体液を吸って捕食していく。すばしこいやつはなんとか高いところに這い上がったり、つねに動き回ることで食欲旺盛な雌から距離を保って生き延びているが、干したホタルイカみたいになった死骸がすでに三個ある。これまで捕まえられたのがたぶん六匹くらいだから半分は喰われたわけだ。奥さんはそのような共喰いの檻を仕事机の上に置いていて、夜寝る前に僕にも見せてくれる。家に出た大きめのムカデを退治した奥さんは、苦手なムカデの記憶がちらついて蜘蛛の脚が動くのを見てもぞわぞわするようになった、そんななかあいつらが馴れ馴れしくなってきているから閾値を越えたのだと話していたけれど、それでなぜ、いつでも観察できる手元にこのような檻を置いているのだろうか。人というのは不思議なものだ。

柿内正午(かきない・しょうご)会社員・文筆。楽しい読み書き。著書にプルーストを毎日読んで毎日書いた日記を本にした『プルーストを読む生活』、いち会社員としての平凡な思索をまとめた『会社員の哲学』など。Podcast「ポイエティークRADIO」も毎週月曜配信中。