とぼとぼ家路を歩いていたら後ろからワイシャツ姿のおじさんに追い抜かれた。そこではたと気がつく。自分は普段、追い抜くことはあれども追い抜かれることなんてなかったと。同世代の同性と比べて歩くのが速いか。健康診断の問診票にはそう書かれていて、速いってことはないんじゃないかと思ったけれど、ふつうにしていれば速いのかもしれない。今日みたいな日でなければ。
健康診断が半端な時間にあったから、昼ごはんを抜くことになったのだけれど、今日に限って十一時ごろからお腹が鳴って、どんどん悲しくなっていった。一度は涼しさの方へ傾いたかに思えた気温は再び上がり、しょぼしょぼ炎天下を歩くと腹ぺこも相まって眩暈に襲われた。なんとか診断会場に辿り着き、そこでも一時間以上かかるから、ごはんにありつけたのはすっかり夕方。しかも張り切ってがっつりめのものを食べたら、気持ち悪くなってしまった。トイレでえずきながらすっかり気持ちは沈みきっていて、ずっとよろよろしていた。健康を確かめるために、夕方まで腹を空かせ、無茶な食べ方をして、顔を緑色にしながら背を丸め、のろのろと這い歩いている。
そんな僕を追い越したおじさんはすでに五〇メートルくらい先行していた。しっかりと両手を振る歩き方はちょっと可愛らしい。でも、速歩というわけではない。いつもの僕であれば、先行されるなんてことないはずだ。試しにふだんはこのくらいきびきび歩いているっけな、というフォームに正して颯爽と歩き始める。胸を張って、それだけで気分も健やかに、呼吸が深くなる感じがある。背も伸びる。足も長いからすいすい進む。次の信号までの間にきっちり追いついて、信号が切り替わると抜き去った。だからといってなんにもならない。汗かくだけだ。
