2024.10.20

午前中、奥さんは早起きして自転車で薬局へ向かった。きのう病院に行ったら時間がかかり、処方箋をもらったはいいものの併設の薬局が閉まっていたとのこと。ふだんはバスで行く場所なので、僕の自転車のスマホホルダーを付け替えて、Google Maps でナビ機能を駆動させながら走っていった。待っているあいだ僕は『フルトラッキング・プリンセサイザ』を読んでいて、読み終えた。いい小説だったな、とTwitterで著者の池谷和浩さんが『一億人に戯曲を読んでもらう99の方法』について投稿されていて、おお、と思う。

まだ見知らぬ道を歩いて気持ちがいい気温だった。広い公園があって、遮蔽物なしに向こうまで見通せることに目が喜んだ。期日前投票に出かけて、コンビニでおやつを買い食いする。その足でさらに奥まで歩いていった。どんどん田畑が増えていって、黒沢清が好みそうな工務店や廃墟もたくさんある。畑で鍬を振り下ろす老婆の動きが緩慢さの中にはっとする突然さがあって、『Cloud』の話をぽつぽつしながら歩く。ずっと向こうに森が見えて、その奥が秋空だ。

保護猫譲渡会に顔を出す。なかなかタイミングが合わずにいたけれど、いよいよ猫をお迎えする算段をつけようという腹づもり。会の終盤だったこともあり、ケージの中の猫たちはほとんど寝ていた。その腹のへこみ膨らみを眺めるだけでも嬉しさがあった。もともとペットショップで購買するという気はなく、というよりも来てみて改めて分かったが選ぶというのは無理で、向こうから来たものを受け容れるという形でなければいけなさそうだった。なるべくこちらの意思決定の余地を狭めたい。しかし、この会場にいるどの猫も素晴らしく、ここから選ぶというのもまたたいへんなことだった。一匹だけ起き出して相手をしてくれる猫がいて、ちゅ〜るをあげてみますかと差し出されてしまった。ちゅ〜るを夢中で舐めとる可愛らしさを前に、こんなの簡単に情がうつってしまう、と僕は思う。しばらくその姿に見惚れる。会場を出た後、奥さんは嬢にドンペリをあけるみたいでいやだった、と言っていた。この子をケージから出してやりたい、という欲望は、たしかに見受けのようなものだ。僕は車窓を流れるしらない雑居ビルたちを見送りながら、呆けていた。猫、猫……

有楽町に出て、シェルクルールの肌の学校に行き、二人とも顔を蒸されたり揉まれたりする。パックをしてもらっているあいだ、短い夢を見た。化粧水やオイルはこういうふうに指を使えばいいのだな、と感触で覚える。銀座の端っこの長屋みたいなビルの二階にあるやよい軒で遅めのお昼。味噌カツ定食を頼む。腹ぺこだった。朝からたくさん歩き、電車にも乗って、三つ以上の場所で三つ以上の用事を済ませ、まだ夕方だった。盛りだくさんな一日だ。交通会館の沖縄物産店で探すとじーまーみ黒糖が置いてあって大喜びで買う。

家に帰って、インタビュー記事の校正、福岡の準備などをてきぱき進める。どちらもやらなきゃなあと思いつつ後回しにしていたもの。今日の密度を勢いに変えてえいやで終わらせる。夕食はぶりしゃぶ。どっさりの野菜で食べる。ぶりは柵から削ぎ切りにして、だんだん上手になったが最初の方はぐちゃぐちゃになった。

寝る前はプロレス。青木対HARASHIMA。めちゃよかった。勝俣瞬馬の挑戦も、HARASHIMA戦のシリアスな防衛戦の緊張を緩めるDDTらしさを発揮しつつ、しっかり技で沈める展開でよい。

柿内正午(かきない・しょうご)会社員・文筆。楽しい読み書き。著書にプルーストを毎日読んで毎日書いた日記を本にした『プルーストを読む生活』、いち会社員としての平凡な思索をまとめた『会社員の哲学』など。Podcast「ポイエティークRADIO」も毎週月曜配信中。