2024.12.20

〈男性社会っぽさってマイクの上手さなんだってプロレス見てて気づいた〉

工藤郁子さんが先日のポイエティークRADIOでの奥さんの発言を上のように要約してくれていた。マイクパフォーマンスに見る「男性社会っぽさ」についてのこの発話、じわじわ効いていている気がする。賃労働の現場において、「自分、やる気あります!」と期待値を上げるパフォーマンスすることにこそ直接的にポジションや報酬がついてきて、肝心の実務については二の次だったりする。正社員の男的な存在が吹かして、非正規のケア労働者が地道にそれらを実現するのだが、口だけのほうが稼ぐ。よう知らんが起業家の資金調達も似たようなものなのではないか。

プロレスのいいところは吹かした分だけ自らの体を酷使しなければいけないという因果関係がはっきりしていること。

賃労働において、現場から離れて企画とか計画とかそういうのばっかりやってると、自分の口だけっぷりにほとほと嫌気がさしてくるのだが、それはそれで色々と損なわれているよな、と思う。賃労働の現場でもっとも嫌なの、見せかけの自発性を表現することを促されるところかもしれない。ほんとに自らの意志でことを進めていいなら昼まで寝てるわ。寒いし。心にもない言動や振る舞いを「自発的」に引き受けないといけないというのは、心身の健康にかなり悪い。けっきょくグレーバーみたいな話になってしまうな。

計画と実行の分離を上下関係のように捉えるのをやめて、前者に偏る賃金体系を見直さないと、どちらにいても苦しい気がする。頭と手足に優劣はない。

夜、興奮した猫が運動会。猫の跳躍や捕獲、狩りの身振りを眺めていると、プロレスを見る目が変わる。人間が猫みたいに動いてすごい。

柿内正午(かきない・しょうご)会社員・文筆。楽しい読み書き。著書にプルーストを毎日読んで毎日書いた日記を本にした『プルーストを読む生活』、いち会社員としての平凡な思索をまとめた『会社員の哲学』など。Podcast「ポイエティークRADIO」も毎週月曜配信中。