2025.01.04

きょうはイッテンヨン。昨年東京ドームに誘ってくれた皆さまとご一緒する。とても楽しみだった。朝五時に猫に起こされる。さすがにきょうは勘弁しておくれ、と思いながら、どうしたの、なにがしたいの、と声をかけながら顔をマッサージする。目が冴えてしまって、昨晩から格闘していたVS Code の「novel-writer」をあれこれいじくりまわして、使えそうなところまでもっていく。しかし、こんなことせずに二度寝するべきだった。すっかり日がのぼる。諦めて上着を羽織りゴミ出しに出ると、さえざえとした寒さ。冬の朝のキリッとした感じはけっこう好きなのだよな、と思う。猫によって朝型になるのであれば、早朝の散歩を日課にしてもいいかもしれない。それでは猫は鳴き止まないのだけれど。TMDK パーカーを着て、EVILのキャップを被るという節操のない格好で出かける。奥さんはデスペインビのTシャツと帽子に、薔薇パーカーという統一感。

プロレス初詣のその前に、東京堂書店で初買いをしたかった。まずは神保町へ寄り、購う本をうきうき探す。年始は無謀な本を買う。年の瀬に読んでいた斎藤哲也編『哲学史入門』で、はじめて生活の実感に接地した形で「興味あるかも」と思えたカント。ブックガイドに素直に従い次に読むべき本を揃えつつ、大元にも軽く触ってみるつもりだった。『純粋理性批判』はざっと調べて読み易いと評判だった石川文康訳上下巻を選ぶ。ブックガイドにあったもので棚にあったのはヘッフェ『自由の哲学』、小田部『美学』。であれば『判断力批判』も小田部訳で揃えようかと東京大学出版の「第一部 訳と注釈」を手に取る。計五冊。いつも東京堂では三万円使うと意気込み、レジで二万そこそこで、本って安いなあと感心するというのが恒例なのだが、今回ばかりはしっかり三万を超えた。このためにFGOの福袋も我慢したし、厳しいお年玉だ。こういうのは向こう十年で読めればいい。

このまま客席に持って行くことも考えたけれど、ビールとか溢したら悲しいよねと奥さんに言われて確かにそうだったので、コインロッカーを使うことに。機械書房の坂の麓のうどんやで腹ごなし。やっと入れた。たしかに美味。丸香に並ばないでも、水道橋まで来てしまえばいいかもしれない。行きの電車からずっと、B’zをめぐる不毛なやり取りをだしにして趣味の共同体におけるステータス闘争についての話に熱中していて、ずーっと話していた。奥さんは、つねに人の好きなものをわざわざ貶すのは失礼だよ、というスタンスであり、自らの人格をコンテンツに委ねる人らが、時空を超えた共同性を形成するために「おれたち」と「あいつら」を区別するという戦術をとることへの一定の共感を持っている僕とは、つねに平行線になる話題だった。それが今日はどうにかお互いの意見が合流できる地点までおしゃべりを掘り進められた感じがあって、達成感のある砂遊びの嬉しさがある。

大久保さんらと水道橋駅前で合流し、東京ドームへ。レモンサワーを買う。今回は二階席。武道館もそうだったけれど、スポーツを主要な内容として想定している箱は高さと傾斜があった方が見やすいような印象がある。第0試合は高橋裕二郎、KENTA、矢野の仕事がよかった。ゼインが出てくれて嬉しい。何も分からなかった昨年から、現在進行形の選手についてはむしろ同行者より詳しくなっている。二年以上前の事情はさっぱり知らないままだから、思い出枠はよくわからない。それで充分楽しめるのだからそれでいい。第1試合は藤田晃生が獲って嬉しいし、九尺脚立も面白いけれど、やっぱりがっつりタッグマッチでぴょんぴょん跳ぶのが観たかったな。

IWGP女子選手権は、なんだかんだで初めての女子プロ。エロい目でしか見れない、やっぱ男とは違うから、と後ろの席の男の子たちが舐めたこと言っていて最低だったけれど、試合が始まると、まじかやべえな死ぬぞ、うっわえっぐ、すげえ、と素直に惹き込まれており、こういう「男の子」の嫌さとよさを端的にまとめたような仕草だった。福岡の中洲で見た学生プロレスも、すかした態度のやんちゃそうな男の子たちが、いつの間にか熱中していて、その裏表のなさを反応させるプロレスの力能というのを感じたものだった。奥さんは、DDTのリズムって女子プロのやつを男子がやるってことだったんだ、と発見する。たしかに軽やかさ、速さ、手数の多さに、上野のそれを透かし見ることができる。めちゃ面白かった。また見たい。

TV選手権はコブがイカしていた。大岩はあと一歩。棚橋引退未遂試合も最高。真・社長であるEVILがじしんの魅力を存分に発揮した一戦で、EVIL好きとしてたいへん嬉しい内容だった。入場の生演奏もゴージャスですごく格好よかったです。棚橋がEVIL にEVIL したところでうるっときてしまった。軽率にいうが、愛だ。つづくTAKESHITA鷹木はこの日のベストバウト。景気がいい元気の蕩尽。元気いっぱいっていいよな。理想のおじさん像ってずっとないと思ってたけど、高木の溌剌さはぜったいにそうならないからこそ理想にできそうな気がしてきた。IWGPジュニアヘビーはDOUKIの怪我で決着という結果で、悲しいけれどデスペのマイクは立派。また次が楽しみ。IWGP GLOBALヘビー級のフィンレーが見事だった。どうにも突破できないでいた辻をぴかぴかに咲かせていた。だから辻もよかった。フィンレーにもらったよさだから、しっかり独力でもいい試合をつくってくれ。セミは葬式。メインは長かった。前哨戦ではいい試合も多かったけれど、あれらはザックが導いていたんだなあとはっきりわかってしまうというか、ザックが海野に委ねてさあどうすると聞いてくれているのに、海野は自力で物語をつくりきれなかったというか、むしろやりたいことが先行するあまり、技と技のあいだの接続がどうにも間延びしてしまう。僕にとってのメインはEVILだったので、まあよしとする。

去年と同じ、統一感の謎な居酒屋で感想戦。都心暮らしを離脱して以来、気をつけていたのにとうとう終電を逃す。日付が変わる前にお暇しなきゃダメだった。しかも駅にダッシュすれば間に合ったかもしれないけれど、コインロッカーに預けたリュックやカントを迎えにいかなきゃいけなかったから、惜しいとかでなく普通に間に合わない。ここまで思い切ると平気で開き直れる。そう思っていたのに接続の妙で最後まで間に合う電車を目の前で見送ることになって微妙に悔しい。行けるとこまで行って、ふたりでタクシーで帰る。駅から歩くより楽チンだ。毎回逃してもいいかもしれない。

柿内正午(かきない・しょうご)会社員・文筆。楽しい読み書き。著書にプルーストを毎日読んで毎日書いた日記を本にした『プルーストを読む生活』、いち会社員としての平凡な思索をまとめた『会社員の哲学』など。Podcast「ポイエティークRADIO」も毎週月曜配信中。