2025.01.22

朝、このまま起き出して頭や気をつかうのがどうにも面倒で布団から出るのを拒絶してしまう。きのうは大寒——僕は伝統的に「おおさむ」と読んでいる——のくせに温暖で、けさは打って変わって冷え込んだからだろうか。だいぶ気分が塞いでいた。すべてが面倒だ。あらゆる仕事は、やればやるだけ増える。たとえば掃除。着手する前は、ちょこちょこと目につく埃だけ取っておけばいいと思っていても、いざ始めると面白くなり、物陰までわざわざあらためて掃除機をかけたり、サッシの頑固な汚れを落とすために洗剤や道具を工夫したり、始める前に気になっていた以上の汚れをどんどんきれいにしたくなる。始めてしまえば、細かいところまでやりたくなってくる。あなたが仕事をきちんとやろうと思えば思うほど、仕事は無限に増える。最後までやり抜こうと考えたら、もうそれは永遠に終わらない。そういうものなのだ。

だから僕は一日を始めるのを拒否したかった。けっきょくおいしいソーセージをパンに挟んで朝食にすることでやる気を出してしまう。一日でやりたいことを書き出し、スケジュールに落とし込む。するとタスクは数十分で済む用事や作業にまで細分化され、やっていけば終わる。全ては終わらない。タスクリストにするとは、どこまでやれて、どこからはやらないで済ますかを明確にするものであり、全部はできないという諦念をこそ呼び込むものだ。タスクを書き出すこと。それは、やらないで済ませるものを決めるという、有限化の手続きである。

昼食を作ったあとは買い物もして、おやつも食べた。労働を適当に済ませ、夕食も作った。次の本の制作も進めた。やればできるものだった。テレビでは『セーラームーン』が放送されていて、面白かった。

寝る前は『響け!ユーフォニアム3』ののこり四話を一気見した。僕はこの作品がかなり好きだが、彼女らのまっとうさがしんどくもあり、しかし観ているあいだは同じくらい真剣なつもりになってしまい、本気で泣き、笑い、どっと疲れた。これは明らかに加齢のせいというか、引きずってきた人生の重みが増してきているからなのだが、感情が、いとも簡単に揺さぶられる。彼女らの三年を、最後まで見届けられて本当によかったとは思う。OBの顔を見るだけで泣いちゃうし、二期では恐ろしかったFate の桜みたいな後輩が健気でどんどんかわいく見えてくるのもよかった。演奏に関しては、斜に構える人がひとりもいないのも、気持ちがいい。でも、うん、もう部活に青春を賭けるような作品は、しばらくいい。黄前さんの進路選択にまず思ったのは、わ、若え〜!だった。おじさんは、もうすこし、くたびれながらも、原理的な正しさではなくとも、ある局面においてはベターな選択というのを地道に積み重ねていくタイプの作品が見たいです。北宇治のやり方に眩しさは感じつつも、僕自身が全国金を目指してみたい人生だったかというと、そうではない気がするから。とはいえ、演奏に嘘をつきたくない気持ちだけは、屈託なくそうだなと思えた。

柿内正午(かきない・しょうご)会社員・文筆。楽しい読み書き。著書にプルーストを毎日読んで毎日書いた日記を本にした『プルーストを読む生活』、いち会社員としての平凡な思索をまとめた『会社員の哲学』など。Podcast「ポイエティークRADIO」も毎週月曜配信中。