奥さんが朝食にクロックマダムを作ってくれる。まだただ大学で演劇をする同期だったころに、合宿のような滞在制作の機会があって、そのときも夜明かしした二人でこっそり食べた。毎回その記憶が蘇って内緒な気分になる。
午前中は夜のみだらな鳥。夜なのかみだらなのかどころか、語り手が誰でいまがいつなのかもよくわからなくなってきた。自他の区別や虚実や時制が混濁しているというよりも、自己に他者が、現実に妄想が、現在に過去が、地滑りのようにして食い込んできていて、単線的な語りの中に間違って挿入されてしまう別の位相が剥き出しになっている、そのような感触。面白くってどんどん読んでしまうので、すぐ読み終わってしまうかもしれない。
角煮の残りでラーメンを作る。作業のお供は『メダリスト』。こういうのはどうしても泣いちゃう。食後は確定申告の準備。一日仕事かと思っていたけれど、二時間ほどであっさり終える。拍子抜けだ。しかし奥さん曰く申告期間はまだ先らしい。じゃあ僕がさっきやっていたのはなんだったんだ?
たまに『二〇世紀の思想・文学・芸術』をはさむ。これはきのう、電子で買う前提で本屋で立ち読みしたら紙の手触りや開きの感じがよくて買ってしまった。冒頭からプルーストの話なのも嬉しい。また読みたいな、カントが落ち着いたらと思っていたけれど、一緒に始めてもいいかもしれない。ひとまずはドノソだけれど、これは案外だらだら読むより一気に読む感じだし。
きょうは一日中人間が近くにいるのが珍しいのか、ほとんどずっと猫がべったりだった。膝やお腹ですやすや眠り、まどろみ、落ち着いているのでこちらもあまり動く気になれず、温もりを感じながら本を読み続けた。試しにレンタルしている加湿空気洗浄機がかなりよく、温かさとは湿度なのだ。これまで二階は二〇パーセントくらいのカラカラっぷりで、いまは四〇パーセント前後。快適さが段違いだ。本がしおしおになったら嫌だなというなんとなくの印象で決断を先延ばしにしてしまっていたけれど、本にとっても乾燥しすぎは毒らしい。もっとはやく導入すればよかった。
夕食を作りながら『空色ユーティリティ』。おじさんにはこのくらいのぬるさのほうが安心して見れる。『メダリスト』の酷薄さはほとんど『メイドインアビス』だ。
