2025.02.16

『ディスコ探偵水曜日』、昨日の電車で軽い気持ちで読み始めたら止まらないし、わりと大長編っぽい。ドノソもカントも止まってしまった。しかしミステリやSFは、作品内の論理や文脈を忘れてしまう前に素早く読まないと面白くない。適切な速さというのがある。熱々のものは熱々のうちに食べないと美味しくないみたいな、繊細な味わいの作法がある。

舞城王太郎、十代で好き好きのやつを手に取り表題作の途中でやめてしまって以来、なんとなく苦手だったのだけど、本作はあちこちで言及されてる感じが好きそうで、いぬのせなか座のnote掲載の『さみしがりの恋人たちの履歴と送信』刊行に寄せたブックリストとインタビューにも出てきてとうとう読んでいる。やはりうっすら苦手な感じはあるけれど——たぶん筆の速度の出し方が、自分のかつての手癖にうっすら似ていてやなんだと思う——、ミステリやSFの文体なのだと思えば飲み込める。

奥さんが午前中出かけているので、その間ずっと読んでいた。中巻まできた。電子だとわからないが、たぶん巻を重ねるごとに分厚くなってくやつだ。ずっと膝に猫がいた。エリザベスカラーを外してやり、お腹に手を添えてそこは舐めないように配慮しつつ、思う存分毛繕いさせてやる。

奥さん帰ってきて、お茶を淹れて貸していただいた『メサイア』シリーズのDVDを見る。まずはいちばん古いやつ。二〇一三年。この頃の玉ちゃんを、僕はまだ奥さんではないどころかただの友達だった奥さんと『ライチ光クラブ』で見ている。

夕飯の仕込みをしてから録音。終えて大根と鶏肉の鍋。お風呂のあとチョコレート。しびれを切らしたルドンがはやく構え構えと抗議の鳴き声。あんなに昼間にくっついていたのに、と思うけれど、一緒にお昼寝したからもう充分でしょ、と奥さんとおしゃべりする時間を疎かにされたら怒るだろう、それと一緒だ、と考え直す。構わせてやるのと構ってもらうのは別だし、椅子やベッドとして使うのと遊びの相手をさせるのも別のことだ。二階が縄張りという意識らしく、一階にいる人間を階段のぎりぎりまで降りてきて呼び、近づくと嬉しそうにたったったっと駆け上がって、振り返って短く鳴く。それでも人間が上がってこないとものすごく不服そうに長く高いンナー!を連発する。今晩はそれを繰り返しすぎたから、ようやく猫の時間になると思い切りうりうり撫でくる。猫はもう待ちくたびれて不貞腐れ、目を三角にしてふす、ふす、と鼻を鳴らしたり、くるる、くるる、と喉を鳴らしながら足元をじっと見つめていた。

柿内正午(かきない・しょうご)会社員・文筆。楽しい読み書き。著書にプルーストを毎日読んで毎日書いた日記を本にした『プルーストを読む生活』、いち会社員としての平凡な思索をまとめた『会社員の哲学』など。Podcast「ポイエティークRADIO」も毎週月曜配信中。