2025.03.01

朝は七時半とかに起きる。父の淹れるコーヒーを飲んで、朝ごはんを食べる。きょうは母が岐阜まで送ってくれる。妹とその夫もついてきてくれるとのことで、早起きが苦手なのに頑張ってくれた。九時半に出ようかと言っていたのに、余裕を持って九時二十分ということになり、さらに九時十分にまで早まった時、誰もが驚嘆の声をあげた。九時二十分に出発した。車内の音楽は妹たちが担った。ドラマの主題歌ばかりだった。ドラマは面白いらしい。西園寺さんとか、海に眠るダイヤモンドとか、特に後者は見たら最後、泣き続け、二度と軍艦島とは呼べなくなるらしい。高速道路から観覧車が見えるところがやっぱり好き。向こうの山には雪が積もっていて青々とした部分との対比がきりっときまってる。

会場に着く直前に、古書市とIndependent Publishing Market の開始時間が一時間ずれていて、古書市の時間で勘違いしていたことが発覚する。しまったことだった。十分単位で刻むどころか、もう一時間遅くてよかった。なんだよー、ごめんねー、と言いながら会場入り。前回よりも出展者が倍増して、去年の会場からさらに改札口までの通路と、改札前の溜まりにまでブースが配置される。きょうはその増設されたところの端っこだった。駐車場側から来ると末端も末端で、不安。しかし電車で来る人から見たらいい場所なのだろう。ぱぱっと設営して、小一時間余裕があるのですぐそばのカフェ・ド・クリエでお茶している母たちと合流。オレンジジュース飲む。

十時半ごろからちらほらと販売も始まる様子で、じゃあ戻るね、とカフェを出て、とりあえずぐるっと会場を回ってご挨拶。十一時前くらいからけっこうな繁盛。猫の本は売れるのだなといいう手応えを得る。ジャージとスカートの着こなしが格好いいなと思った人がばんかおりさんで、今年も再会できて嬉しい。ほかにも何人か、たぶん去年も会ったな、という方々がいて、また来てくれて嬉しい。お隣はH.A.B で、松井さんとおしゃべりできるのも楽しい。途中で娘ちゃんもお母さんにつれられてやってきて、にこーっと笑いながら松井さんの脛にひしっと抱きつく。大きくなってる! 前にあったのは五年前、それこそ生まれたてのベイビーちゃんだった。お久しぶり。覚えていないと思うけれど、会ったことあるんだよ。不思議そうな目でじーっと見返してくれたね。アイドルを目指しているというだけあって愛嬌たっぷり。お店番を手伝うぞとやる気いっぱい。おつりと、おまけの「H.A.Bノ冊子」のお渡しを、「いちばん大好き」な猫のぬいぐるみと一緒にしっかり行う。したのこみがうえにもきたらいいのに。もっと働きたい、もっと売ってみせる、という前のめりな姿勢が通じたのか、H.A.Bのブースはたしかに娘ちゃんがいるうちに最高の売上を見せていたけれど、娘ちゃんはひっきりなしに人が途切れないことをイメージしていたので物足りない。『r4ンb-^、m「^』も買ってくれる。上手にウインクしながら写真も撮らせてくれる。前回は夕方にかけて盛り上がった気がしたけれど、今年は午前中がピークでそこからはけっこう凪。何度か離席し、『かんさつバンド』や『思考錯誤』を買う。それらを読みながら店番。それでもなんだかんだで本は動いており、これだけ売れたらいいなという数は超えたので、気楽。

終えて、ちゃきちゃき片付け、生活綴方のブースであおきさんの本買う。そのままご飯にお誘いする魂胆だったが、まだ忙しそうだったので先に友田さんに話しかけ、行く感じの雰囲気にしていただき、北尾さんや面髙さんにもお声がけし、ぞろぞろとつれだってまだ明るい岐阜の飲み屋街に繰り出し、なんかおいしいおでんとかのお店で、座敷に四人ずつ座る。暑く、冷奴とビールを注文し、注文は壁についた内線電話で行わなければならず、北尾さんがまいど格好よく通してくれた。有線電話が似合う。電話一本ですべてを動かす雰囲気がある。ビールはおいしく、串揚げやポテサラを楽しんでいると、終盤になって冷奴が来て、忘れてた、なぜ後に頼んだ揚げ物よりも豆腐が遅いんだ、とそれだけで可笑しく、酔っ払いだ、もうだれも豆腐の気分じゃない、あれこれにぎにぎしく皆がおしゃべりしている様は愉快で、うれしく、よく飲み、最後にとうとうおでんの大根、これがとても美味だった。まだ十九時で、じゃあもう一軒、と今度は軒先の簡素なテーブルに八人ぎゅうぎゅうに詰めて座って、日本酒などをさぷさぷやり、もう一軒行きそうな皆を羨ましげに見送りつつ岐阜駅に戻り、ふらふらとかすかに頭痛、水をたくさん飲みながらもう寝そう。寝てしまうとどこまで連れていかれるかわからないから、眼鏡を外して眉間を揉みながら耐え、奥さんに連絡して正気を保ち、奥さんも今晩は飲んできたよう。寝そう、今にも寝そうだ、と励まし合い、とうとう駅に着いて通話をする。インカメラに下膨れに映るお互いの顔は夜の暗さであまり見えないけれどほっとする。酔っ払いだから要領を得ないまま話を続け、二つの家への夜道をがんばる。奥さんが先に家について、あ、待ってる、とカメラを外側に反転するとルドンが階段のところでにゃあと鳴いて迎えてくれている。きょうは人間いなくてつまんなかった? 声だけでわかるだろうか。おーい、僕だよー。ふんすふんすと奥さんに頭を押し付ける猫をにこにこ眺めて、こちらも家についたので通話はおしまい。実家には弟とその恋人も来ていて、はじめましてなのだが頭も痛いし呂律も回らない。とりあえず集合写真を撮って、すぐ寝た。

柿内正午(かきない・しょうご)会社員・文筆。楽しい読み書き。著書にプルーストを毎日読んで毎日書いた日記を本にした『プルーストを読む生活』、いち会社員としての平凡な思索をまとめた『会社員の哲学』など。Podcast「ポイエティークRADIO」も毎週月曜配信中。