2025.03.27

よはく舎から献本が来ていて、カントの美学についての本だ。小林さんが僕が今カントを読んでいることを察して送ってくださったのだろう。ありがたい。まだ理性の準備運動で、実践もほど遠く、判断力こと美学に辿り着くのはいつになることやらわからないけれど、お礼に何かしたくもあるから遠いいつかを先に味見するのも悪くないかもしれない。

乗り換え駅の成城石井でチョコレートとワインを買って、電車では『アンチ・ジオポリティクス』を読み始めた。温泉マークが読んでいて面白そうだった本。原宿で降りて、正午から始まる花見に向かう。花粉やら黄砂やらがたいへんらしく、電車の中ですでに鼻水漬くだった。駅前のマツキヨでティッシュを買う。代々木公園を歩きながら、あ、ここはよつばが走った原っぱ、あれはとーちゃんが腰掛けたであろうベンチ、あそこらへんに宇宙人がいた、と楽しく思い出す。花の小路に桜は五分から七分咲きくらいで、おお、咲いてるんだ、と驚く。会場の丘の広場は、左右の別のエリアの桜を遠目に確認できるくらいで、あとは青々とした木々や葉の落ち切った枝ぶりを楽しむような場所で、はじめから花を見に来たわけではないというのがわかりやすい立地だった。ケータリングやブルーシートの到着を待っているところで、とりいそぎビールで始まった。よりたくさんのお酒も、おいしそうなごはんも、ブルーシートもすぐに来た。気の利く人らが手伝いに行き、僕はぼんやり立ち尽くしていた。さっきまであんなにじゅびじゅびだったのに、人にあったら鼻水も止まるものだ。

保坂さんの倉庫から出てきたという小島信夫『寓話』を一冊買う。もう買えないかと思っていたから嬉しい。挟み込まれたペーパーの保坂さんの短文は、もう一枚しか見つからず、ほかにはどこにもないとのことで、写真に撮らせてもらう。あとで読もう。けっきょくこのペーパーは花見の最中に行方不明になって、残されたデータは僕が撮った写真だけだとあとで言われた。この山下澄人『わたしハ強ク・歌ウ』も買えるというので買う。これも格好いい本だ。

調整さんで来る人の名前は見ることができるから、あの人にも久しぶりに会えるかな、と思える人たちがけっこういたはずなのだけれど、お酒を飲んでにこにこしてたらだいたい忘れたし、多くを見逃したり声をかけそびれたりした気がする。阿久津さんにReads がとても素晴らしいことをもっと伝えたかったと思うけれど、それはまたどこかでできる気もする。阿久津さんはこのあとJ-WAVEに出るとのこと。向井くんが阿久津さんと三人で写真を撮ってくれる。セルフィー。保坂さんにも阿久津さんが声をかけて四人でも撮る。その場で写真をもらう。二十枚近くあって、連写するんだな、と思う。見てみると僕もみんなもかわいくてよかった。友田さんとよく喋る。自家製レモンシロップの瓶にはコピー紙の切れ端が貼ってあって「弟」と書き付けてある。これはいったいなんなんだとふたりで不思議がり、のちにそれが漬け込みの時期の前後関係を表していて、「兄」はもう使い切ったのだと判明しなるほどねえ、と腑に落ちた。先、あと、とかでよさそうなところをわざわざ兄弟にするんだな、という違和感はのこる。はじめましての方々とのおしゃべりも愉快で、あれこれ話したような、他愛もないことしかしていないような、あっというまに四時間くらい経っていて、外で飲むのって気持ちがいいな。トイレも近くにあって安心だし、飲みきれなかったら地面にこぼしちゃえばいいんだ。二次会も行こうかなと思いつつ、日が暮れて寒くなるとだんだん眠くなってきて、友田さんと一緒にお暇する。なんだよ帰っちゃうのかよーと巫山戯て保坂さんが肩をそっと掴み僕の左の膝裏の関節に足を滑り込ませてくるので、プロレスの技かも!と思う。こうやって戯れてくれるのは嬉しい。

電車に乗るうち面倒になって、定期外のルートでそのまま乗り続けてバスで帰ると車酔いで気持ち悪くなってしまった。奥さんの胃腸の調子はいぜん悪い。夕食はささみとキャベツの昆布鍋をつくる。奥さんも〆の素麺まで食べれたようで安心。洗い物の気力はなく、そのまま放置。お風呂に入りながら、届いていた『随風』を読む。その間に奥さんは寝落ちてしまった様子。僕も早めに寝たほうがいいよなと思いつつ、日記。

柿内正午(かきない・しょうご)会社員・文筆。楽しい読み書き。著書にプルーストを毎日読んで毎日書いた日記を本にした『プルーストを読む生活』、いち会社員としての平凡な思索をまとめた『会社員の哲学』など。Podcast「ポイエティークRADIO」も毎週月曜配信中。