2025.05.07

起きられない。起きる気がしない。労働は昼からにする。たくさん寝て、シャワーも浴びる。それでようやく動き出せる。かといって倦怠感はそのままある。深刻な満開疲れ、および贅沢な外食疲れ。エーステを完走したことでほっとしているのもあるし、そもそも千葉から横浜は遠い。移動はなんだかんだでくたびれる。奥さんは昨日も横浜のライブに出かけていたからすごい。昨日から読み始めた『口述筆記する文学』は、大判の単行本なので、リュックには前田愛『近代読者の成立』。音読と黙読の章から始める。NotebookLMの体験は、声に出して読み聞かせてもらう、聴取する本への先祖返りのようでもある。あたらしいというよりは、多くの人は読み書き能力をもたず、誰かに代わりに読んでもらう時代への回帰という感じがする。退行、と一度書いて、不要な能力なら劣化して当然か、と思い直し回帰に書き直した。ぼんやりする。そういえば昨日は漢方を服み忘れた。一昨日も半分忘れた気がする。それだけではないけれど、それもあるというか、ちゃんとしていれば少しはましだったかもしれない。そうであってほしい。打つ手なしというのがいちばん困るから。

日中どうにもならず、コンビニで十年ぶりくらいにチョコラBBを買って飲む。コーヒーも買う。風は気持ちがいい。日差しは強いけれど目が焼けるというほどではない。外に出るたびに目が染みて、それも頭痛の原因なような気がする。サングラスを手放せない。リュックのサイドポケットには入れているけれど、かけ忘れることもしばしばだ。マスクをすると夜には顔がべたべたで不快だ。髭を剃り忘れた日は特にそうな気がする。朝シャワーを浴びたからか、きょうはそうでもなく夕方でも気持ち悪くない。でも、シャワー浴びたならそのまま髭も剃っちゃえばよかったのに。

面倒くさいな、手に余るな、そのくせなんとなく暇だな。労働時間はだいたいそのようにして過ぎていく。

それはそれとして、

小萩海さんの『r4ンb-^、m「^』装画挿画制作秘話、Readsで読めるのだけどとてもとても面白いのでこれだけでも読んでほしい。

対象を絵にするとき、その目や手がどのように働き、絵としてのリアリティのためにどのような「嘘」が選択されるのか。技術の話はわくわくするなあ!

reads.jp/u/umiyoake

きのうはまじで元気が出なかったのだけど、小萩さんの書いたものを読んで、改めて『r4ンb-^、m「^』の表紙を愛で、モデル猫を愛でようとしたら素っ気なくされ、としている時間に救われた気持ち。

https://note.com/moriteppei/n/nc10423c19744?sub_rt=share_sb

さらに話が変わり、この記事を読んで、NotebookLM触ってみて、いよいよ多くの文字列は声のための指示書あるいは素材めいていくかもしれないな、と思った。

生成AI以降、読み書きは「おしゃべり」に限りなく接近していくと見立てている。つまり、読書が「教室でわいわいやってるあいつらとは違う」というような自意識の糧になりうる季節がいよいよ終わり、読み書きとは結局コミュ力なのだという身も蓋もない事実から誰も逃れられなくなる。

エッセイというジャンルは、そのような苛烈なコミュニケーションゲームとしての文章表現の最前線なのだ、という仮説のもと書いたのが、エッセイしか載ってない雑誌『随風』に寄稿した時評。『随風』寄稿者が自身のエッセイを朗読しているさまをアップロードしているのもこの点で興味深い。

ここでの文字と声の質的差異とは——つまり「おしゃべり」の要件とは——、相互的(インタラクティブ)であるかどうかではなくて、オングの『声の文化と文字の文化』で整理されているように、文脈依存的であるか否かだ。文字は状況や文脈から離れていくらでも抽象的なことが言えて(書けて)しまうからこそ、議論の起源や文脈から自立的に構築することができる。一方で声は、ある文脈を前提として交わされるものであり、いきなり謎概念ぶち上げても「は?」となる。空気の読めない人、コミュ力のない人として話を聞いてもらえない。

文字を受容する感覚が声のそれに近づくとき、独自の観点や立論を旨とする類いの文章は、飛び込み営業地獄の特訓のようになるのかもしれない。そのような状況を見越して、文章表現で何か既存の認識体系の撹乱を志すような「文学青年」たちは、詐欺やペテンのテクニックをこそ磨くべきだろう。にこやかに、しなやかに、感じよく、懐にもぐりこめ。ニーズをかきたてろ。みんなWin-Win。金を出せ。

柿内正午(かきない・しょうご)会社員・文筆。楽しい読み書き。著書にプルーストを毎日読んで毎日書いた日記を本にした『プルーストを読む生活』、いち会社員としての平凡な思索をまとめた『会社員の哲学』など。Podcast「ポイエティークRADIO」も毎週月曜配信中。