明け方に、ごきぶりが飛んでくる夢を見て、ひゃあっと悲鳴をあげて目が覚めた。ひゃあっと声をあげていることが面白くてけらけら笑い始めてしまう。奥さんも起きてしまい、え、なにごと、と心配する。すやすや眠る。また夢を見る。高いところからいろいろ落っことしたり、奥さんとおしゃべりしたり。こんなに夢を見るのは久しぶり。
雨だ。稽古の日も半分以上雨だったし、カハタレって雨集団なのかしら。「カハタレの現在地Vol.2 ―カハタレの分身計画―」初日。まずは最終調整のために稽古場をとってもらっている。東池袋の公民館で、だいたいここか上池袋のいずれかで稽古していて、いつも大塚駅から歩いていく。大塚駅周りは、ぼんごという有名なおにぎり屋さんがあり、大塚書店の店頭には関連書籍が大々的に宣伝されている。そのほかおいしそうなお店がけっこうある。いい感じのカレー屋を見つけてお昼を食べて、路面電車沿いを歩いていく。雨がどんどん強くなる。稽古場はいちばん乗りで、退勤後向かうと必ず誰かがいたからこれははじめてのことで、畳の上に座って『ダロウェイ夫人』を読んでいた。俳優のお二人は衣装や本の詰まったスーツケースを持って現れ、すでに上気している。蒸し暑い。寒いくらいに冷房をつける。稲垣さんも空港から駆けつける。かるく通し稽古。稲垣さんが喜び、それで丹澤さんも南出さんも嬉しそうで、あ、これで完成したんだな、と思う。団体のリーダーとはこういうことなのだろう。この人が楽しそうだったらいいか、という指針。神保町に向かう頃には雨は上がっていて、降っていたらタクシーのつもりだったけれど電車でいけそうだった。
寄ったセブンは棚卸の影響なのか、ごはん類がほぼなにもなくて途方にくれる。月花舎の地下の楽屋で一息。十七時の閉店を待っているあいだに、奥さんや、遊星Dのみなさんも来る。折り込みや値付けを先にやっておく。地上に出て、照明を振り直し、テーブルを片付け、椅子を移動する。本の陳列をしたり、あらゆるものの配置を検討したり、その場での思いつきでどんどん変化していく。予想通りにばたばたする。ゲネを行い、丹澤さんの調子がいい。遊星Dはさっぱり面白くなくてハラハラした。ほとんど間髪入れずに開場。空調が暑めで、稲垣さんもどんどんんおすすめするからドリンクがよく出る。人が入ると様子が変わる。丹澤さんの演技は環境の側との相互のフィードバックがあり、微妙に質感が変わっていく。まずは試運転という感じで、もっとよくなるだろうな、と思いつつ、懸念していた場面がうまくいってよかった。南出さんは緊張していた。遊星Dはゲネでダルかったところがおおむね解消されていて、調整の勘がとても鋭いな、と思う。あとこれは観客がいる状態での一回性に賭けるほかないつくりだから、稽古も準備も場当たり的であらざるをえないんだな、というのも納得する。「奇跡を待つ機構」をつくるという試みは、どれだけ自由にのびのび楽しい気持ちでいられるかにかかっている。その大らかさを担保する、ケアや労働の領域を梢さんがひとりで担っていて、いいチームだな、と思う。ケアされることを当然のことのように頓着せず、好きにやる、という環境を保守することがどれほど難しいことか。というか、これは素朴に人は大人になっていくとだんだん可愛がられなくなっていって、むしろ甘やかす側に周り、気遣いや気苦労を覚えてしまうというだけの話かもしれない。数年前から、上の世代の演出家の振る舞いの暴力性が問題化されるようなことが続いていたけれど、これはまさに、甘やかされていることに無自覚なまま、みずからの自由さを行使することが他に不自由を強いるという構図を見過ごしてしまい、権威の増大と共にこの不均衡がいよいよ程度を越すということなのだろう。終演後、本がけっこう売れて嬉しい。現状復帰して、あすも乗り打ちバラシだ。ひょえー。
なにかを行うとき、関係者の誰にも抑圧を感じさせることなくのびのびとやるというのはたぶん不可能で、かならず迷惑を被りフォローやケアをする裏方が要請される。ではその裏方を誰に任せるのか。演出や主宰の仕事というのは、主にこの裏方の手配にこそあり、俳優たちはなるべく自由の確保に専念しておいた方がいい。このへんの意識が足りていなかったなーと反省する。もともと自分が主宰でお芝居を作っていた頃はそれこそ裏方の苦労にまったく頓着せず好き勝手遊んで叱られてもへらへらしていたというか、それこそ可愛げだけで乗り切っていた。それ以来、自分がもう可愛くなく、誰かのラブリーやチャーミングの発揮のために淡々と裏方を引き受けるという覚悟や胆力がすくない。自前で全部やる面白さももちろんありはするのだけれど、主宰が不在で、演出のブランクが大きいという状況では、スタッフはちゃんと手配しておくべきだったかもしれない。とはいえ、たぶんこれからもこの体制でやるほかなさそうでもあるから、やりようを考えなくちゃいけない。どうするかなあ。
稲垣さんが宿をとっていないというのではるばる家まで来てもらう。駅前の居酒屋でかるく打ち上げ。お風呂を貸しているあいだに二階に布団を敷き、なんだかんだで二時過ぎまでおしゃべり。本棚から『閃く経絡』を抜いて自慢すると、読みたかったやつとのことで、お貸しする。稲垣さんは明日は八時前には出なければとのことでハードだ。横になるとすぐ気を失う。
