2025.05.29

午前中は『映画史』を見る。4Aがよかった。ドニ・ド・ルージュモン『手で考える』の引用らしい長いモノローグ。

テキストとオブジェの両面で浮かび上がる手のイメージ。頽れる人体。

車のライトが夜に滲み、黒地に点在する色として配置される。

反復される手のイメージ。人間の手はモノを扱う。

火焙りにされる女性。

ポルノ映像と『フリークス』が重ね合わされる悪趣味なシーン。

昼には出るつもりが、なんだかんだでちんたらして、それでもようやく出かけていく。電車で『民のいない神』を読み終える。二五〇年ほどのタイムスパンをジャンプカット的に繋いでいくことで、懸隔を埋めるような何かをつい見出そうとしてしまう。そのような読みの性質を問うてくる手つきに『HYPERTEXT#1 カウンターカルチャーと陰謀論』と通じる方法論を感じた。ある個人が特権的に占有できる「真実」などどこにもないのだと、砂漠の空漠に託して語られる。

本屋lighthouseで本を買う。意識していたわけでも、まったく意図していなかったわけでもないけれど、レジに持っていったのは注意やイメージについての本ばかりだ。

この本はさっそく道中で読み終える。いい本だった。楽しく読み書きし続けることの困難というか、浅知恵をつけたあとでなお無邪気にはしゃぐことについて考えていた。途中で銀座のエルメスで「スペクトラムスペクトラム」を見たのもよかった。会場を回遊する自分が、複数のカメラによって撮影され、それぞれ別々に設定された時差を伴って投影される。それらと不意に出くわしながら、まじめな顔で電柱に残された犬のおしっこの跡を鑑賞する。笑えた。

奥さんと待ち合わせして、期間限定で間借り出店しているINDIA GATE でビリヤニを食べる。カツビリヤニは前回渋谷に出展していたものよりも改良されていて、とてもいい味だった。ふっくら炊かれた出汁の効いた米と、細かく挽いた粉で揚げた薄めのカツは、両者だけではあまり引き立たない組み合わせなのだけれど、塩気を抑えたかっこういい台湾ミンチの旨味や、あんかけのニラの青い風味が全体をまとめている。ご馳走だ。ぶどうとマスカットのアチャールもたいへんよくて、酢とマスタードシード、あとあれは油もマスタードオイルだろうか、塩気と甘みそれぞれの酸味がぐっと立ち上がって、これは家でも作ってみたい。鯛出汁のビリヤニは何度食べても大好き。付け合わせの麻婆豆腐も、辛味や塩気で塗りつぶされない、豆腐やひき肉の風味があり、スパイスを臭みの糊塗としてでなく、風味の補助として使う手つきに感心する。いつか京都のお店にも行こうねと話す。行きたいところがたくさんある。うれしいことだ。

柿内正午(かきない・しょうご)会社員・文筆。楽しい読み書き。著書にプルーストを毎日読んで毎日書いた日記を本にした『プルーストを読む生活』、いち会社員としての平凡な思索をまとめた『会社員の哲学』など。Podcast「ポイエティークRADIO」も毎週月曜配信中。