2025.06.02

なぜか日に日にリュックが重くなる。作業部屋にちょっとした乱れ——捨てるべき紙、こんがらがった配線、なぜここにあるかわからない機器——があるだけでずいぶんと嫌な気持ちになる。てきとうに片付けて平穏を取り戻す。奥さんの腰は壊れたままで、午前のうちに鍼を受けて安静にしている。ハンモックがやはりいいらしい。

膝に乗った猫を撫でる。頬骨のところをうりうりやってやると気持ちよさそうに目を閉じる。首の後ろをかいてやる。背中の毛を綺麗に流し、ふざけて逆撫でしてみてもあまり動じない。すこしぴくっとして尻尾を振り出したらもうやらない。胸毛がいっとうふさふさしていて触っていて楽しい。手のひらだけでなく、甲、指先、手首で毛の流れをなぞって、それぞれの風合いや温度の伝わり具合をたしかめる。手を繋ぐようにして前足や後ろ足を握る。肉球をふにふに押しても嫌がらない。かかとである部分の骨の形を探るようにしていじる。横向きになってうとうとしだし、寝る。鼻が詰まっていて、ぷっすーぷっすーと寝息を立てる。この寝息は、寝返りが打てずにろくに眠れず、昼寝をしている奥さんの寝息と瓜二つだ。好きな人と好きなけむくじゃらはどちらも似たような寝息をたてて眠る。寝息に耳を澄ませ、すやすやとした顔を眺める時、じんわりと嬉しくなる。

会議中はルービックキューブをいじっていた。こういうのができるから在宅労働はいい。『スロー・ルッキング』を読み終え、『知覚の宙吊り』へ。ですます調のレクチャーが二冊続いたあとの、いかにも現代思想のフレーバーは、落差で手強く感じるが、親しみのある文体でもある。速度が全然違って、ぐっと遅くなるが、たぶん量的にもさっさと先に進んでいくように読む方が良さそうなのだけれど、眠くて眠くて集中できない。諦めて昼寝。脱水気味で起きる。鏡の前で裸になるとうっすら筋肉質で、さいきんケーキやドーナツを食べているからかもしれない。もっと脂や砂糖を摂って、体を大きくしたい。日記を書くあいだ、猫をじゃらすのを奥さんと交代する。猫と遊ぶ? と問いかけたら、遊びじゃねえ、戦いだ、と言って張り切っていた。日記を書き終えて奥さんに見せにいくと、猫はどこかにいってしまっていた。

柿内正午(かきない・しょうご)会社員・文筆。楽しい読み書き。著書にプルーストを毎日読んで毎日書いた日記を本にした『プルーストを読む生活』、いち会社員としての平凡な思索をまとめた『会社員の哲学』など。Podcast「ポイエティークRADIO」も毎週月曜配信中。