2025.06.17

一階の階段下スペースは、猫のトイレ用に小部屋にしてあって、ヒトは屈んで穴に半身を突っ込むようにしないと中を覗えない。小部屋の前はヒト用トイレで、だいたいヒトが用を足したあとに猫の排泄状況を確かめて、してあれば猫砂を掘って、うんちや、おしっこで固まった砂を掃除する。今日はやけに暑く、脱水気味なのだろう、やたらお腹が緩く何度もトイレに立った。夜になって、夕食を作る前にもう一度トイレに向かい、出るとぐにっとやわらかな感触を裸足の足裏が察知した。つづいて、ほわっとした香ばしいにおい。うんちだ! ヒト用トイレの扉と階段室のあいだの廊下に、猫のうんちがあり、それを踏んだ! 裸足で! 足下を見やると、土踏まずの部分を凸とした形に象られたうんち。明るい茶色で、ふだん猫砂に埋まっているものと較べてずいぶん柔らかい。大笑いして、奥さんにうんち踏んだ! 裸足で! と報告し、風呂場で足の裏を洗い、それから二人で廊下を拭き上げ、位置的にトイレの扉を開けたときに巻き込んでいるから、ドアの下の部分にもウェットティッシュを差し込んで掃除し、猫も抱き上げて後ろ足を拭いた。暑かったから、調子を崩したのだろうか。それとも、ちょうどしようとしたときに人間がすぐそばの扉を開け閉めしてびっくりして出てきてしまったのだろうか。なんにせよ災難だったねえ。イカ耳になって、しばらく興奮していたルドンも、見ようによっては恥ずかしそうだったり、しょげているとも解釈できる様子で、ハプニングであればいい。繰り返すようだと体調が心配だけれど、誰しもうっかりはある。いやしかし、うんちを裸足で踏むというのは初めてだなあ、と夕食の準備に取りかかると、私もそれはないな、でもゲロは踏んだ、踏んだというか、直接足に吐かれたことはあるよ、と昔の猫の記憶を話してくれた。猫は砂漠の動物だから、寒さよりは暑さのほうが強いらしく、人間がバテているのをよそに一階ですやすや昼寝していた。夕食を終えるころにはやたらと甘ったれで、久しぶりになでくりまわすが、いかんせん手汗がひどくてお互いあまり気持ちがよくない。

柿内正午(かきない・しょうご)会社員・文筆。楽しい読み書き。著書にプルーストを毎日読んで毎日書いた日記を本にした『プルーストを読む生活』、いち会社員としての平凡な思索をまとめた『会社員の哲学』など。Podcast「ポイエティークRADIO」も毎週月曜配信中。