朝起きられないというよりも、夜寝れていないというわけでもなく、睡眠の質がとびきり悪いと言う感じなのか、とにかくずっと寝ていたく、朝目が覚めてからしばらく起き上がれない日が続いている。どうすればいいのだろう。暑さにしっかりボコボコにやられている。昼から奥さんは出勤、そのまま夜は飲み会で、ひとりの予定だったので飲みに出かけようかと考えていたのだけれど、家を出るのが億劫でひたすら冷凍のフライドポテトを揚げては食べ、物足りなくて揚げては食べ、この数日、芋づいているのはカリウム不足だろうか。
夜、えぐい映画が見たくて『ホステル』を見て、大したことなくて、半端な娯楽性も嫌な感じで、ゴアを求めて見ているこちらがいうのもなんだが、醜悪な作品だった。二〇年前だから、こんなものなのかもしれない。口直しに『悪魔を見た』を見て、これも十五年近く前の映画だが、たいへん満足。クズしか出てこないし、なにひとつカタルシスはない。ただ凄惨な暴力だけがあり、巻き込まれて死ぬ人の数が多すぎる。痛そうで臭そうで、ちゃんとげんなりした気持ちになる。夜道を歩けばほぼ確実にサイコ野郎にぶつかる治安の悪さは笑えるほどなのだけれど、性暴力描写だけは不必要にねちっこく、それはかなり嫌だった。嫌なものとして撮られているのであればともかく、損なわれる女性の姿を、血や臓物の楽しさと同じように、ほらほらこれが見たいんでしょう？というような撮り方をしているのが嫌だった。暴力はすべて醜く汚く痛そうに撮られなければいけない。ほのめかせば充分なものを存分に見せつける悪趣味さがゴアの本懐だとするならば、たしかに姿勢としては一貫しているのかもしれない。いやしかし、損壊する心身の誇張された痛みに対して、女性の顔がきれいなままなのはやはり別種の気持ちの悪い欲望に奉仕してしまっている感じがする。ここは難しいな。人の体が血まみれになって変形していく様を見たいというのも気持ちが悪くはあるのだし。
僕は固いプリンのようなおっぱいが惜しみなくぽろんぽろんと出てくる欧米のホラー映画が好きだし、男女問わず、人がただの肉塊になっていく様を見たいと思ってある種の映画を見ている。しかし、暴力描写に性的ファンタジーは入り込んできて欲しくない。ホラー映画のぽろんぽろんのおっぱいは、阿呆な性的ファンタジーとして陽気に提示されるからこそよいのであって、そのようなファンタジーも圧倒的な破壊行為の前にはあっけなく崩れ去るというところに暴力描写の倫理がある。分離しているからこその落差。ファンタジーと暴力は分けるべきで、混ぜてはいけない。趣味の悪い映画の鑑賞にも美学というものがある。
僕はたぶん、映画が伝達する痛みに、社会性を超越したなにかを感受している。暴力描写において、行為の主客は関係なく、ただ非人称的な暴力を見ている。暴力は彼我の区別をも無化する。そこに癒しがある。性暴力描写におけるポルノ的なまなざしは、はっきりと被害者の側の人間を客体化し、加害者の主体性を確立させたうえで観客の目がこちらに同調するように促してしまうから嫌なのだろう。そこには社会の不均衡が自明の前提として入り込んでいる。僕の好きな映画の暴力は、社会性の手前でただ野蛮にすべてを巻き込んで破壊していく。社会化され、区別された人間が消失し、ただ現象と血と肉だけがある。そういうものが好きだからこそ、それが社会的欲望に奉仕するファンタジーに矮小化されるのが嫌なのかもしれない。映画の暴力は卑近な社会的感性から素材を調達するファンタジーをも超えていて欲しい。なんじゃこりゃ！であって欲しい。それはまったく世間的に弁明のできないものであっていいのだが、その弁明のできなさは、反社会的であるからというのではなく、非社会的であるからそうであるようなものを僕は嗜好している。ここまで言い切ってしまうと、おためごかしだろうか。楽しいセックスと凄惨な暴力。ポルノと映画の紙一重でありつつ明確な区別。やはりそういう微妙なバランスをこそ愛でたいというのは本心な気がする。やはり、『13日の金曜日』ってすごくいいよな。凶器出すならペニスは出さない！
日付をとっくに越えた頃、奥さんが帰宅。十個下の後輩に励まされながらなんとか帰ってきたとのことで、シャワーを浴びたあと面倒がって濡れたタオルを放り出してぺろんぺろんに寝ようとする。治安の終わっている映画を見ていたせいで、あまりに無防備なかわいい酔っ払いを眺めながら、無事に家に帰ってこれたのは奇跡みたいなことだと考えてしまう。酒臭いヒトは猫とひっつきながらのんきにいびきをかき始めた。
