2025.08.26

(本名)、お前の全てをよこせ。生活も、趣味も、思考も、すべて柿内のものだ。これってまんま『罪人たち』じゃんね。

この日記を書いているのは二十八日で、二日三日が経っているのだけれどまったくその実感がない。病臥の時間感覚というのは、似たような感覚の繰り返しで、ずっと重怠いのに振り返るとべたーっと均されていてどこからどこまでで一日が区切られているのだかわからない。とにかく、夜になると咳が止まらず寝付けず、あちゃーこれは明日も動けないなー、と冷静に絶望的な推論をして、案の定朝になるとばっちり具合が悪いというのは、昨日も一昨日もずっとそうだった。だからこれは今日の日記として書いてもいいだろう。つまり、二十五日の夜、寝れずにずっと咳をしていて、気を紛らわすためにiPhoneをいじり、謎にタスク管理アプリを新調したり、ホーム画面のレイアウトをいじったりしていたから、翌日の今日、まあ書いている時点からすれば今日もまた一昨日なのだが、とにかく日記の時制における今日、昨晩の自分の合理性がまったくわからず、この画面は使いやすいのか、どうなのか判断ができない。どうせ体を休めているのなら本を読みたいが、もちろん目を使うと頭が痛くなるので無理だ。ひらがな多いし大丈夫かな、と『ハックルベリー・フィンの冒けん』を読んだのは今日じゃなくて明日だったかもしれない。いや、ちがうな、やっぱり今日も読んでいた。それで明日読み終えたのだった。終盤、前作の主人公がしゃしゃり出てきて邪魔だった。かなりいやだったし、その直前のハックの内面の推移がとても鮮やかだったから、いきなりスラップスティックなギャグ漫画になってしまって戸惑った。だけれど、これは明日の話で、この日記時制の僕はまだ知らなかっただろうか。いや、たぶん、もう今日の時点でトム・ソーヤーはしゃしゃり出てきていたはずだ。だから、さっさと読み終えてしまおうと思ったのだった。奥さんも風邪をひいて倒れてしまったのは今日だっただろうか。そのはずだ。明日には病院に行って、帰り道に妖精のスタンプを送ってきた。嬉しくない大人の夏休み、と言ったのはこれを書いている時制での今日だ。まずい、このままでは明日と明後日の日記に書くことがなくなって、すべてが今日になってしまいかねない。猫と同じくらいの睡眠時間で、寝過ぎもあってお尻の神経がずっとしくしく痛む。咳をしすぎて腹筋が鍛わる。お腹が凹むより先に背中の肉がごっそり消える。ルドンは足元で一緒に寝てくれるが、苦しくて身を捩るとちゃっかり布団の真ん中を占有するので、そのままねじれた体制のまま寝る羽目になる。このせいで余計に節々が痛む気がしてならない。圧し潰されたような時間感覚で、これまでも、そしてこれからもずっと、体は悪いままなのではないかという気がする。

柿内正午(かきない・しょうご)会社員・文筆。楽しい読み書き。著書にプルーストを毎日読んで毎日書いた日記を本にした『プルーストを読む生活』、いち会社員としての平凡な思索をまとめた『会社員の哲学』など。Podcast「ポイエティークRADIO」も毎週月曜配信中。