2025.10.19

昨晩は倒れるように眠ってしまったので、朝にシャワーを浴びてすっきりする。お酒が翌日に残るというのが減った。耐え切れずにすべてをうっちゃり寝てしまい、寝てしまいさえすれば朝にはけろっとしているのだが、なにか無理があるような不健康の気配がする。台詞覚えのために奥さんとの読み合わせを録音する。奥さんにだけピンマイクをつけて、僕の声は遠くでカラオケのガイドボーカル程度に聞こえるような塩梅で録音できた。目で覚える方が得意な気はするのだが、ひたすら耳から入れるというのも試してみる。紅茶ヨーグルトのチーズケーキを朝食代わりにして、そのまますぐに昼食にレトルトカレーを食べる。

映画が見たくて、ふたりで『敵』。厭な映画だった。コーヒーを飲みながら感想を組み立てて、すぐに録音。映画の尺とだいたい同じだけしゃべる。奥さんのリテラルな受け取りに対して、僕は「信頼できない語り手」の映像化として読んでいたので、ラストの解釈が割れるというよりも、内在的に見る奥さんと超越的に見る僕との対照があり、面白かった。奥さんはキャラクタ個人の必然性というか固有の理路の方を追いかけており、僕は映画そのものを騙りの形式として構造が示唆するもののほうをこそ読みたがっていた。結論としてはそこまで対立点はないようのだけれど、なんだか相容れずにいた。奥さんは最後まで長塚京三演じる渡辺のドラマとして具体を見ており、僕は老いと自己批判(の不徹底)が排外性に帰着する運動を抽象化したモデルとして見ていた。個と全の対立のようでもある。ところで、録音でなにより面白かったのは劇中で河合優美が連発する空疎な個有名の中にプルーストがあるのだが、その名に引っ張られて自分の中に盲点が生じ、周到に計算された河合優美の最強ヒロイン性をまったく感知できていなかったことにおしゃべりのなかで気がついたことだ。これは吃驚した。まったく映画を見れていないことが暴かれてしまった。

料理が楽しく、おいしそうな映画でもあったので夕食は鍋。ラム水餃子の冷凍があったのでそれをキャベツと煮て、自家製辣油で食べる。なにか気分が晴れるものを、と『ばけばけ』の二週目を見ながら食べる。状況の悲惨さとしては、まさに『敵』の渡辺が恐れていたようなものなのだが、『ばけばけ』の高石あかりは悲惨さをすこしも矮小化しないままに明るさがあってすごい。どうしようもない憤りを抱えたまま、それでもごきげんでいることはできる。それはかなり苦しいことでもあるのだが、『敵』に足りなかったのはこのようなごきげんへの意志ではなかったか。誰一人、機嫌がよさそうじゃなかったもんな。むっつりしたスノビズムと、それへの批判精神だけがあった。

寝る前はボードゲームアリーナ。二人で遊ぶには『スカイチーム』がかなり盛り上がる。『宝石の煌めき』は画面配置が微妙で、なんだか物足りない遊び心地。勝っても負けても釈然としなさが残る。勝ったことないのだが。

柿内正午(かきない・しょうご)会社員・文筆。楽しい読み書き。著書にプルーストを毎日読んで毎日書いた日記を本にした『プルーストを読む生活』、いち会社員としての平凡な思索をまとめた『会社員の哲学』など。Podcast「ポイエティークRADIO」も毎週月曜配信中。