2025.10.25

奥さんに誘われて浜松町のビルに行く。村村がアピールする物産展とステージの催しで、地産の素材をつかったシェフレピの出展が目当てだった。奥さんはさいきん「まかないラジオ」も聴いている。屋外のフードトラックでカレーとハンバーグとジンジャーエールとコーヒーを買って、中のテーブルで食べる。ステージでは自治体ごとの広報が頑張っていて、僕はこういう仕事が得意だし好きだろうなと思う。映し出される田舎の景色を見ながら、ここで暮らすことができるだろうかと思う。社交が余暇の娯楽ではなく生活の必要である場所。なんだかんだで適応できそうだけれど、それは一人の場合の仮定で、奥さんがいるなら無理だろう。奥さんが運命共同体としてすばらしすぎるために、ほかへの必要を感じられないのはもうわかっている。山口県の村からやってきた神楽が始まる。開演前の映像で大蛇が出てきて可愛かったので登場が楽しみだったけれど、なかなか出てこなかったので出ないのかもしれない。運ぶのたいへんそうだしなあ、とブースを見て回り、トイレを使って戻ってみると大蛇がいる! 四匹もいる。うれしくて、白と赤が格上っぽく、じっさい動きも鮮やかだ。青の大蛇はすこしもたついており、ほかの操り手よりも背が小さいのだろうと思っていたのだけれど、最後に出てきたのを見るとむしろ背が高かった。一匹につき一人が演じ、頭部を手で持ち上げて動かし、ものすごく長い胴体は全身で回転しながら蜷局を巻いたり、屈伸しながら伸ばしたり、うねらせたりする。かなりの運動量だ。大蛇が酒を飲んで眠くなるさまや、自分の尻尾が邪魔で頭をぶんぶん振るすがたが愛らしく見えるのは、ルドンを思い起こすからだろう。蛇なのにどこか猫っぽいというか、そもそもルドンが来てからあらゆる動物に猫を感じてしまう。大蛇は組体操みたいにくんずほぐれつポーズをとる。終盤には舞台を飛び降りて最前列のお客さんに襲い掛かり、巻き付いたりしていて、プロレスの場外乱闘だ! やんややんや!

雨が降り続けており、でもあまり滅入らないのは奥さんと一緒に出掛けたからなのか、土砂降りではないからなのか、寒いからなのかはわからない。そういう日もあるというだけだ。全然関係ないのだけれど、この数年は欠乏を理由に何かをするということへの限界を感じていたけれど、ぜんぜんまだ足りていないよな、と思えるようになってきた。欲張りを恥じない。まだまだ欲しがって、でもどこにもなくて、何かを自作するしかないというのはできる。暑いのはほんとうに苦手なんだな。気温が下がって、意欲や感性や傲慢さが調子よく膨れ上がってきており、おいおいおいおいおい楽しいな!となっている。それに対応して賃労働への意欲がほぼ無になっており、自分がやりたかったり得意なことが金になるようなことだったら、今ごろ僕は働き過ぎで体と暮らしを破壊し尽くしていただろうなと考える。そうでなくてよかった。

柿内正午(かきない・しょうご)会社員・文筆。楽しい読み書き。著書にプルーストを毎日読んで毎日書いた日記を本にした『プルーストを読む生活』、いち会社員としての平凡な思索をまとめた『会社員の哲学』など。Podcast「ポイエティークRADIO」も毎週月曜配信中。