2021.08.08(2-p.150)

ちょっと楽しいね。

土砂降りのなか歩いていると奥さんがそう言った。なんだか久しぶりに外の匂いを嗅いでいる。言われてみれば団地の前の道の植込みは、雨に打たれて水気を含み、絶え間なく揺さぶられることで土や葉のすこし甘いような匂いを強めてマスクを抜けて鼻腔に届いている。そうだね、と応える。そうか、この匂いを嗅ぎたかったのかもしれない。やけに山に行きたかった。

映画館に着いて、ヒロアカ。冒頭のシーンでこの映画は亀がたくさん出てくるのかも、と期待したけれどそうではなかった。オープニングの演出は特にだし、そのほかにも端々にマーベルへのオマージュを感じて、そうかあ、映画にするってことは、そういうことだよな、と思う。少年少女たちが席に着いていて、内容も含め、ヒロアカはドラえもんやポケモンの夏休み映画の域に入ったんだなあとしみじみした。ここ最近の単行本を読んでいると、そろそろ深夜アニメに引っ越した方がよくない? と思うのだけれど、ちゃんと子供たちの作品でもあるのだな、と嬉しい。吉沢亮という人は『東京リベンジャーズ』の時も思ったけれど声の演技が非常に二次元的で、要は声だけに機微をちゃんと載せてくる、2.5次元の演技体なのだと感じたけれど、しっかり声優の仕事をしていて感心した。ほとんどオリジナルのこのキャラクターの映画で、デクくんはじめヒーローたちはそれこそ劇場版ののび太やサトシのような通りがかりの伴奏者に徹している。だからこそ映画としてちゃんと一本にまとまっていたのがよかった。原作の設定と照合するとガバなところも少なくないけれど、これは夏休み映画だからいいのだ。ジャイアンと違って普段以上にただの怪獣になってしまうかっちゃんの悲しさは際立つが。僕は移動のシーンがたっぷりある映画はそれだけで好きです。

そのままモール内で昼食のとんかつを食べて、GUやユニクロを歩き回って夕方まで遊んだ。奥さんに似合うTシャツの形を検証するために、似たような黒いのばかりを選んで試着室でがしがしABテストを行った。三着くらい買われた。へとへとで、喫茶店でコーヒーと抹茶ぜんざい。とんかつも甘味も映画の半券で優遇される。まさか一日モールで遊べるような大人になる日が来るとはなあ、と帰り道の二人は感慨深げだったが、帰宅すると猛烈な眠気に襲われることになる。

柿内正午(かきない・しょうご)会社員・文筆。楽しい読み書き。著書にプルーストを毎日読んで毎日書いた日記を本にした『プルーストを読む生活』、いち会社員としての平凡な思索をまとめた『会社員の哲学』など。Podcast「ポイエティークRADIO」も毎週月曜配信中。