2021.08.20(2-p.150)

フィトンチッド。

それが僕らに必要なものだった。

ここまで打って、続かない。どうしたもんかね、と呟く。

シャワーも必要だったんじゃない?

そうかもしれない。熱めの温度に設定して浴びてくる。さて、それでこうして書いてる。

フィトンチッド。それが僕らに必要なものだった。お盆休みの存在しない二人はこの時期に高尾山の方に行こうと計画をしていた。連日の感染状況にいよいよ滅入って、この辺りを歩くのも躊躇うようになった。それで移動するのはなんだか矛盾しているようでもあるが、矛盾のない人などいないし、とにかく人の少なそうなところに行きたかった。あとは山の匂いを嗅ぎたかった。山村に行こう。なるべくお手軽な。それで高尾だった。高尾山口の近くに宿を取り、おのおの退勤後に向かった。

ふたりとも想定以上に仕事がごたついて、着く頃にはすっかり空は夕暮れだった。駅のホームで目的の匂いはすでに嗅げる。川が流れている。明日になるとなんだかんだで賑わうのだろうか。そうでもなかったら山に登りたい。

一足先についてチェックインを済ませてくれていた奥さんは部屋で待っていて、知らない部屋に好きな人を訪ねていくのはなんとなくうきうきするものだった。荷物を適当に置いて、散歩に出る。なんとなく高尾駅まで往復40分くらいのコースを想定して、途中のゲストハウス兼カフェみたいなところで夕飯。ハンバーガーとハンバーグ。美味しい。それで歩くと高架を境にずいぶん雰囲気が変わって、高尾駅の側のほうが人里っぽさが強い。どこもセブンとファミマが隣り合っていて、分散というのを知らないのだろうか。なんとなく電車から見えた大きめの商業施設を目指した。ゾンビ映画に最適な感じの、ショッピングモールといったらこんな感じ、というのを色んなところから寄せ集めてきたような既視感しかないモールで、二人で、この施設には自分ってものがないね、そこがいいところというか取り柄なんだけど、と話しながらふらついて、ここでの生活を想像したりしてみる。駅前のダイエーなんかも覗く。たくさん歩いて疲れたので、帰りは大人しく電車にした。

それで日記を書き損ね、シャワーを浴びていま一度日記。

柿内正午(かきない・しょうご)会社員・文筆。楽しい読み書き。著書にプルーストを毎日読んで毎日書いた日記を本にした『プルーストを読む生活』、いち会社員としての平凡な思索をまとめた『会社員の哲学』など。Podcast「ポイエティークRADIO」も毎週月曜配信中。